Photography=Shin Hamada Design=Takashi Ihira Edit=jeep creative department.

vol.1 国宝 納涼図屛風(東京国立博物館 × メトロポリターナ)[国宝級の「推し」と出会う]

アート, おでかけ

 名品を知り尽くす研究員たちが極私的に惹かれる推しの一品。作品へのまなざしを紐解きながら、奥深い世界を、ぜひ体験しよう。


国宝 納涼図屛風

久隅守景筆
江戸時代・17世紀

metro284_tmn-metro2610_1.jpg

江戸時代初期の絵師・久隅守景による代表作。夕涼みを楽しむ一家の姿と、広々とした余白が印象的。自然とともに暮らす人々の穏やかなひとときを描いた名品。

※現在は展示されておりません


心の奥に染み入る、
国宝『納涼図屛風』。

 数々の至宝を誇る東京国立博物館。ここで副館長を務める松嶋雅人さんが「推し」として挙げるのが、自身が長年研究してきた久隅守景(くすみ もりかげ)の代表作、国宝『納涼図屛風』。

 「画面の大部分を贅沢に空けた大胆なレイアウトと、片側に配された家族の佇まい。夕顔の棚と月が描かれており、夏の終わりから秋へと移り変わる瞬間の情緒が凝縮されています。華やかで派手な絵ではなく、寂しげでじわじわと心に染み入る“ものの哀れ”を感じさせる作品です。一般的には『夫婦と子供』と解説されますが、絵画におけるモティーフの配置のお約束から『父親と、姉弟の子ども二人』の姿ではないかと捉えています。家族が座る筵(むしろ)の周りに描かれた小さな点々は河原の砂利で、川沿いの粗末な住まいで涼む小作農のささやかな日常を表現したもの。極めてシンプルな手法の一枚から途方もない情報量が立ち上がってくる。これこそが、この絵の面白さなんです」


SF・アニメ愛から始まった
視覚表現の探究。

 鋭い観察眼で作品の真価を解き明かす松嶋さんだが、その柔軟な探究心の原点にあるのは、意外にも少年時代のアニメ体験だった。

 「当時は 70年代のSFやオカルトブーム全盛期。アニメや漫画にハマり、そこから歴史ものにも興味を持ちました。大阪に住んでいたので、奈良の石舞台古墳や京都のお寺の密教美術を面白がってよく見に行っていましたね。絵描き教室に通うようになり『将来は絵描きになる』と思いこんでいましたが、美大入学早々に、自分には無理だと諦め、気づけば無意識のうちに美術史の道へ進んでいたんです。今もSF映画や配信ドラマ、アニメまで幅広く楽しんでいますが、そうしたポップカルチャーへの熱量は現在の仕事にも深くつながっています。

 400年前の日本絵画も現代のアニメや漫画も、シンプルな視覚的記号やレイアウトによって感情を表現している点では何ら変わりありません。時代やジャンルの枠にとらわれず、感覚的に通じるものを自由に発見できる柔軟さが、自分の根底にあると思います」

 好奇心のままに美と向き合うしなやかなスタンスは、歴史ある至宝を誰もが自分の物語として楽しめる「開かれた体験」へと変えていく。


【プロフィール】
松嶋 雅人(まつしま まさと)
1966年大阪市生まれ。東京藝術大学大学院博士後期課程満期退学。数々の展覧会の企画・監修を手がけ、現在は東京国立博物館副館長を務めている。


上野の寄り道案内。

metro284_tmn-metro2610_2.jpg

上野公園で味わえる
東博ゆかりの料亭

上野公園内に佇む、明治8年創業の老舗料亭。東京国立博物館の初代館長・町田久成が店名を名付けたゆかりの店で、落ち着いた公園の空気とともに味わう名物「鶏すき」は格別。

韻松亭
住|東京都台東区上野公園4-59
電|03-3821-8126
営|11:00〜(L.O.15:00)、17:00〜22:00(L.O.20:00)
※日曜・祝日はL.O.20:30
休|なし



アート, おでかけ


この記事をシェアする

LATEST POSTS