映画、音楽、演劇、小説にアニメーション……日々新しい文化芸術が生まれる街で、そのつくり手たちは、どんなことを考えているのだろうか。今回はシンガーソングライターからベース、ギター、他のアーティストへの楽曲提供まで、幅広い分野で活躍するキタニタツヤさんにお話を伺った。
テレビアニメのテーマ曲の書き下ろしや楽曲提供など、多岐にわたる音楽活動で輝きを放っているキタニタツヤさん。芸術や創作は「作り手の内面が否応なく出てしまうもの」と語る。
「たとえばその人がどういうものが好きなのか、どう生きてきたのか。隠そうと思っても絶対に少なからず出てしまう。自分の場合『このメロディーの動き、いつもやっているな』とか『これ何かに似てるな。あ、俺が中学生の頃にめっちゃ聞いていた曲だ』とか。それが面白いんだと思います」
今回、5月29日から上野の森美術館で開催中の「大ゴッホ展」東京展のイメージソング『肺魚』を手がけた。2014年からネット上で楽曲を投稿しキャリアを積み上げてきたキタニさんだが「スーパープレッシャーを感じました」と本音も明かす。
「ゴッホの絵を見て『自分ってどんな人間なんだろう』と考えたことを歌にしようと。ハイギョって水中で魚として生きてはいるけど、肺呼吸なんですよね。周りはえらで普通に呼吸して生きていける環境の中、同じ場所にいるのに自分だけ違っている。そういう象徴としてハイギョにしました」
絵画と音楽。表現の世界に身を置く者として、ゴッホの生きざまには共鳴する部分もあったという。
「ゴッホはすごく他者が好きだと思うんです。書簡、お手紙をたくさん書いていて、自分から送った数が圧倒的に多かった。人間が好きで興味もあった一方で、時にうまく距離をとることができないこともあったんだろうなとも感じて。そこは自分も思い当たる節があった。人が好きだけど、正しい距離でいられているのか、実のところはわからない。勝手にシンパシーを感じました」
作品に添えられたゴッホの書簡も見どころの一つ。そして目が離せないのが約20年ぶりの来日となる代表作『夜のカフェテラス』だ。
「やっぱり象徴的なのが空の青色。当たり前なんですけどただの青一色ではなくいろいろ重なっていて。あとは光の種類の違いとか。カフェの明かりと星の光とで別のものとして描いていたり……。目の前で見てみないとわからないなと思いました」
ゴッホと向き合い、自身と向き合うことで、新たな自分に出会う。『肺魚』の優しい曲調は、鑑賞後の余韻を暖かく包み込む。
「絵画鑑賞は『色のついた鏡』だと思う。悲しい絵を見たら自分も悲しいと思うかもしれない。その絵を描いた人や作品の〝色がついた〟状態の、自分の姿や自分の心を楽しめるのではないかなと思います」

(キタニタツヤ)1996年2月28日生まれ。東京都出身。自ら作詞作曲したテレビアニメ「呪術廻戦」のOPテーマ「青のすみか」で第74回紅白歌合戦に出場。中島健人とのユニット「GEMN」としての活動も話題を呼んでいる。

大ゴッホ展 夜のカフェテラス 東京展
8月12日まで上野の森美術館で開催。神戸、福島、東京の巡回展で、オランダのクレラー=ミュラー美術館所蔵のコレクションから《夜のカフェテラス》をはじめとする約70点を展示する。キタニさんがファン・ゴッホの人生と作品をイメージして作詞作曲した『肺魚』(1番のみ)は、会場で貸出する音声ガイドでも聴くことができる。