映画、音楽、演劇、小説にアニメーション……日々新しい文化芸術が生まれる街で、そのつくり手たちは、どんなことを考えているのだろうか。好評連載「光が紡ぐ言葉」では、「大ゴッホ展」のテーマソングを手掛けたキタニタツヤさんに、さらにお話を伺った。[WEB EXTRA ]
展示室の内覧に訪れたキタニさんは、絵画の横の書簡もじっくりと読み込み、ゴッホの世界に浸った。つい目が留まったのは『4本の木のある秋の風景』(1885年)だったそう。
「素人目からしたら結構何でもない風景なんですけど『こいつ(を描くこと)と取っ組み合うのは4回目だ』という手紙(の展示)があって。これを描き切ることがゴッホの中で一つクリアすべき段差で、それを4回トライしてやっとできたのがこの絵で、そのことにすごく充足感がある。もしかしたらこういう絵がなかったらその後こういう色彩に転じていくこともなかったかもしれない。技術ってそういう積み重ね。『ゴッホもやってるんだ』って(笑)。めちゃくちゃ練習しているんだなと」
制作過程の葛藤、挫折、再起―。時代を越えて誰もが知るような画家も、同じ道を歩んでいたことに驚かされた。キタニさんが2021年3月にデジタルリリースした『Ghost!?』には『フィンセント』という歌詞が登場する。ゴッホとのコラボと聞いて、この曲を連想したファンも多いはずだが…。
「『糸杉』とか本当に最後の方のゴッホの絵って夜空がにょろにょろしていて。精神的なものがあって、見え方が普通の人の目とは違ってきている。風景が動いていないのにアニメーションしているというのが面白いなと。そういうふうに見えていたんだろうなという夜空の描き方をしていたので(歌詞に入れた)。自分にはない目をもっていたんだろうなと思っています」
そんな過去からのゴッホとの縁もつながり、今回、イメージソングの『肺魚』はお披露目となった。サビでは「くだらない」という歌詞が繰り返される。キタニさんがゴッホの絵を見て感じた、キタニさんによるキタニさんの姿がそこにある。
「くだらないことで頭がいっぱいになる瞬間が多くある。自分にはそういう自嘲癖、自虐癖があるんですけど。別にやりたくてやっているわけではないそういうものたちを、やめられるならやめたい。でもやめることができない。それが自分という人間であって、付き合いながら生きていく。そういうことが苦しくなった時に、好きなものでいっぱいにする、そんな感覚もゴッホにももしかしたらあったのかなと。すごくきれいなアルルの絵があったりして、それを見て、そんなことを思いました。きれいなもので飽和させて、忘れたいことを脳から追い出したのかなと」

(キタニタツヤ)1996年2月28日生まれ。東京都出身。自ら作詞作曲したテレビアニメ「呪術廻戦」のOPテーマ「青のすみか」で第74回紅白歌合戦に出場。中島健人とのユニット「GEMN」としての活動も話題を呼んでいる。

大ゴッホ展 夜のカフェテラス 東京展
8月12日まで上野の森美術館で開催。神戸、福島、東京の巡回展で、オランダのクレラー=ミュラー美術館所蔵のコレクションから《夜のカフェテラス》をはじめとする約70点を展示する。キタニさんがファン・ゴッホの人生と作品をイメージして作詞作曲した『肺魚』(1番のみ)は、会場で貸出する音声ガイドでも聴くことができる。