《オーバーディフェンス》 2017年 油彩・キャンバス 182.9×274.3cm

ロナルド・ヴェンチューラ展 ー 内省

アート, おでかけ

 アジアを代表する現代アーティスト、ロナルド・ヴェンチューラ。
彼の作品約120点が集まる大規模個展を見に、軽井沢ニューアートミュージアムを訪れてみよう。

「軽井沢で出合う、フィリピン現代美術。」

 フィリピンの現代美術家、ロナルド・ヴェンチューラはいま、アジアのみならず国際的なアートシーンで注目を集める作家のひとり。日本の美術館で初めてとなる大規模個展「ロナルド・ヴェンチューラ展―内省」が、長野県軽井沢町の軽井沢ニューアートミュージアムで開かれている。古典と現代性、グローバルとローカル、日常と非日常、ポップな遊び心と鋭い批評性…。さまざまな要素を織り交ぜた、幅広い表現世界を堪能できる。

 高さ3メートル超、黄金の骨をたずさえる犬のアイコン「ボブロ」に迎えられ、いざ6つの展示室へ。作家自身のアイデアにもとづく展示は、部屋ごとに異なる世界を展開し、絵画や彫刻など計約120点で構成されている。

 まず足を踏み入れたのは、闇に満たされた空間。そこにあるのは「ブラックスターシリーズ」と題された漆黒の彫刻群と、映像などを組み合わせたインスタレーションだ。夜の海に出航した船は、またたく星座を目指すものの、漕いでも漕いでも進むことはない。そして、人と神獣を融合させたような〝黒い星〟の像には、フィリピン土着の神も投影されているという。人類の行く末を暗示する、ダークファンタジーの世界が広がる。

 ヴェンチューラの表現は見る者の想像力を喚起し、多様な解釈を許す。現代アートは難解と思われがちだが、おなじみのアニメや漫画、ゲームのキャラクターを参照して作品に取り込んだりと、日常の生活から発想した彼の作品は、同時代を生きる私たちにとっても共感しやすいだろう。

 スマートフォンの中のヴァーチャルな世界で、あふれるイメージを受容する日々。「ドールアイズ2」などの絵画作品は、リアルと仮想空間を当たり前のように往来しつつ他者と関わっていく私たちの日常を、アイロニーを込めて描いたものだ。一見、モノクローム写真の上に、二次元の少女やスマホ画面のイメージを貼り付けたように見えるが、近づいて凝視してもらいたい。手描きの油彩画なのだ。

 どこか見覚えのある奇妙なキャラクターから動物、半人半獣までポップな彫刻も楽しいが、やはり圧倒されるのはヴェンチューラの画力。まるでシュルレアリスム絵画のように、湧き上がるイメージを変幻自在に融合させた大画面の作品は見ごたえがある。

 「早くから画才に恵まれ、大学で本格的な美術教育を受けた彼の創作の基礎には、西洋美術の伝統がある」と同館学芸員の石川なみ乃さんは指摘する。なかでも油彩画「オーバーディフェンス」は興味深い。遠目にぼんやり浮かんで見えたのは、19世紀フランスの画家、ドラクロワの名作「民衆を導く自由の女神やアンリ・ルソーの「戦争」のイメージ。が、実際に描かれているのは野球の乱闘シーン。飛び掛かるサルやトラ、権力に抗う人々の姿も紛れ込んでいる。

 長くスペイン、アメリカなどの支配下にあったフィリピンは、自国の伝統文化を持ちながらも、外からの影響を強く受けてきた。野球とは米国文化のメタファーであり、カオスの世界はフィリピン社会や文化の複雑さを反映しているのだろう。

 自らの起源―アイデンティティーを深く掘り下げ、「内省」するヴェンチューラ。「決して回顧展ではなく、彼の進化の過程を見せるための展覧会」(石川さん)。彼が好んで生み出すキメラのように、創作上でどんな変貌、進化を遂げるのかが楽しみだ。

 

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高さ3メートル超の犬のアイコン

≪ボブロ≫ 2018年 ガラス繊維、樹脂、アクリル、金箔 317.5×165.1×137.2cm

metro224_special_07_3.jpg第4展示室内の様子

metro224_special_07_4.jpg《ドールアイズ2》 2020年 油彩・キャンバス 121.9×182.8cm

metro224_special_07_5.jpg《波》 2016年 ガラス繊維、樹脂、木、ビデオプロジェクション、音 139.7×411.5×76.2cm
※本作品は「ブラックスターシリーズ」と本展の特別コラボレーション企画として展示

 

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Ronald Ventura
ロナルド・ヴェンチューラ

 1973年フィリピン・マニラ生まれ。アジア最古の大学でフィリピン・マニラにある聖トマス大学を卒業後、2011年にはサザビーズ(香港)で絵画《Grayground》が東南アジアのアーティストとして最高額で取引される。以後、アメリカ、ヨーロッパ、アジア各国のギャラリーや美術館で紹介され、現代美術の最先端として高い評価を受けている。彼の創作する絵画と彫刻は、その比喩的なモチーフの連鎖とともに世界の現代美術シーンで異彩を放っており、イメージとスタイルの複雑なレイヤー(層)を特徴とし、ハイパーリアリズムから漫画、落書きまでモチーフは多岐にわたる。


《Information》

「ロナルド・ヴェンチューラ展-内省」
 Ronald Ventura - An Introspective

2022年4月10日(日)まで

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会場:軽井沢ニューアートミュージアム(長野県北佐久郡軽井沢町軽井沢1151-5)
開場:10:00~17:00 ※入館は閉館30分前まで
休館:月(祝日の場合は翌日)
料金:一般2000円、高大生1000円、小中生500円
問い合せ:Tel. 0267-46-8691
https://knam.jp


《Original Goods》

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