“日常の断片を記す”×木下龍也(歌人)/“テーマごとに書く”×武塙麻衣子(作家)[日記って、おもしろい。]


Interview ♯3
“日常の断片を記す” × 木下龍也(歌人)

metro280_special_03_1.jpg

 昨年3月から「日記の舌 木下龍也の日記」をWEB連載中の木下龍也さん。書籍化も決定している“公開される日記”を書き始めるにあたり、木下さんが最初にしたのは「日記とは何か」を考えることだった。

 「考えや思いを五七五七七に収めていく短歌は、自分から2段階ほど離れたところにある作品です。自分から出たものだけど自分とは違う。一方の日記は、喋ることそのままくらいに距離が近いし、書かないと決めていても滲み出るものもある。それを読んでもらうって怖いんですよ」

 それまで日々を記録する習慣のなかった木下さんが日記を始めたきっかけは松任谷由実さんだった。

 「昨春ユーミンのラジオに出演したんです。その前にユーミンの曲を時系列で聴いて、いろいろ考えてメモしていったんですが全然喋れなくて。そういうものは記録しておいたほうがいい、と編集さんに言われてこういうかたちで書くことになりました」

 書かれた日記は翌月に公開される。

 「読み返して思うのは、いろんなことを覚えてないなということ。お花見で聞いた穂村弘さんの言葉だって、日記がなかったら消えていっただろうと思います。爪を切った指先の寒さのような感覚も書かないと忘れてしまうけど、短歌にするには小さすぎる。こういった断片を書くこともよくあります。いま思っている全部、連想や推敲もそのまま書かなきゃと思うと、手書きだと追いつかないのでPCとスマホを使います。短歌を書くときも、ペンや紙といった道具に重心をのせると、それがないと書けなくなるのが怖い。あってもなくても同じ気持ちで書けるようにするには、自分の場合は道具にはこだわらないほうがいいようです」

 公開前提で、執筆期間もほぼ決まっていた日記。連載終了後は?

 「本当に書き留めて覚えておきたいことは短歌にしますから、きっと書きませんね。短歌も日記もメールも書くことでエネルギーが消費されるので、優先順位を考えると自分はやっぱり短歌を書きたいです」

metro280_special_03_2.jpg

metro280_special_03_3.jpg

家ではPC、外ではスマホ。単語やフレーズをメモし、それを見て思い出しながらPCで日々を記録する。夢日記や読んだ本、観た映画の記録も。

metro280_special_03_4.jpg

〈ナナロク社〉のnoteで「日記の舌 木下龍也の日記」第1~15回が公開中。https://note.com/nanarokusha/m/m833dde9ded12  今年7月下旬、同社から書籍として刊行予定。


木下龍也さん
1988年山口県生まれ。2011年から作歌を始める。『オールアラウンドユー』など4冊の歌集のほか、岡野大嗣、谷川俊太郎との共著や、教本などの著書も好評。
@kino19880112


Interview ♯4
“テーマごとに書く” × 武塙麻衣子(作家)

metro280_special_03_5.jpg

 2020年の春、〈日記屋 月日〉開店のニュースを目にして、「自分も作ってみよう」と、手元にある日記をもとにZINEを作り始めた武塙麻衣子さん。『諸般の事情』『頭蓋骨のうら側』など7作になったZINEのうち、酒場巡りの記録をまとめたものに書き下ろしを加えた『酒場の君』で2024年に商業デビュー。以来、文芸誌やWEBに、雑誌に、活躍の場を広げている。

 「これがなかったら小説もエッセイも何も書けない!と断言できるほど、私の執筆は日記に支えられています。小さな頃から観察日記や絵日記の宿題が好きでした。中学時代には小さな鍵付きの日記帳に、大学時代にmixiが出てきてからは紙のノートにいくつかのSNSも併用して日々を記しています」

 日常、猫、酒場、旅、映画、料理の献立などテーマごとに書き分けている日記帳は現在6冊が稼働中。

 「これは記録したいと思ったらとにかく書き始める。新聞で気になった記事を切り出して挟んだり、記事を読んで気になったことをメモしたり。イワシが60円で嬉しかったらそれも書く。猫のノートには食事や薬や爪切りの記録、ときどきイラスト。映画館では気になる効果音や気に入った台詞をメモしたりツッコミをいれたり。手元を見ずに書くのですごく斜めになっています。どの日記も特別なことは書いていないし、自分の感想や思いもなし。それでも、このときこういうことがあったという事実を消されない場所に記録しておきたいんです。10年分の記録が同じページに収まる10年日記は来年までのものなので、2028年からの10年日記も購入して、日記を書くことで幸せも辛いことも淡々と引き受けていければいいなと思っています」

 もともと、人の日記を読むことが好きだったという武塙さん。

 「日記を読む楽しみを知ったのは、銀色夏生『つれづれノート』が最初だったと思います。武田百合子『富士日記』、沢木耕太郎や鷺沢萌の日記本も愛読しています」

metro280_special_03_6.jpg

10年ノートとマイブック以外はサイズや厚みもさまざまなノートを併用。『諸般の事情 完全版』は、2019年からの日記を収めた日記のZINE。

metro280_special_03_7.jpg

ペンはbicのクリックタイプ。黒インクで、同型の色や柄違いを何本もそろえている。ミュージカル「CATS」のロゴ入りが一番のお気に入り。


武塙麻衣子さん
1980年神奈川県生まれ。エッセイ集『酒場の君』でデビュー。著書に『西高東低マンション』。今夏『一角通り商店街のこと』、秋には『にぎやかなひとり飲み』を上梓予定。
X @MaikoTakehana





この記事をシェアする

LATEST POSTS