史上最も高名な仏師といっていい。平安末期から鎌倉初期、ちょうど貴族から武士へ政権が移る乱世に活躍した天才、運慶(?~1223年)。現存作は三十数点とされているが、その約3分の2がいま、東京国立博物館(台東区)の「運慶」展に集結している。
平安後期の大仏師、定朝(じょうちょう)以来の美の規範-流麗で抑制された像を離れて、写実的で量感のある力強い像へ。理想的な仏の姿を追うというより、生きた人間を思わせる迫真の造形へ。奈良仏師を率いた運慶は、激しい新風を巻き起こした。
20代のデビュー作、国宝「大日如来坐像(ざぞう)」(1176年、奈良・円成寺蔵)。既に非凡な造形力を見せるが「まだおとなしい、端正なお像ですね」と東京国立博物館企画課長の浅見龍介さん。台座の部材の裏に、自筆の署名や花押(かおう)を残しており、若き仏師の達成感や自負心がのぞく。