女性のように見える男性のなまめかしさ、性差を感じさせない中性的な魅力など、異性装には今も昔も、人を惹(ひ)きつけるものがある。江戸時代の浮世絵を通して女装や男装といった風俗を探る展覧会が、東京の太田記念美術館で開かれている。
古くは『古事記』や『日本書紀』の中で、ヤマトタケルが女装して熊襲(くまそ)を退治する話が知られている。幕末から明治にかけて活躍した浮世絵師、月岡芳年はそれを題材にした錦絵を描いた。月をテーマとした連作の一つ「月百姿 賊巣の月 小碓皇子(おうすのみこ)」だ。月夜の中、女装して宴会の様子をうかがう小碓皇子(後のヤマトタケル)を描出。優雅に衣装をまとった小碓皇子が月光とかがり火で浮かび上がる。これほどみめ麗しければ、決して男性と気付かれることはないだろう。
こうした絵のように、人々の日常生活などを描いた浮世絵には異性装の様子をしばしば見ることができる。