人の生と死、風化する記憶の継承や蘇生について一貫して表現してきたフランスの現代美術家、クリスチャン・ボルタンスキー(72)。東京での初個展「アニミタス さざめく亡霊たち」が東京都庭園美術館(港区)で開かれている。同美術館の本館は昭和8年築、アール・デコの精華を極めた旧朝香宮邸。激動の昭和史の記憶を宿す空間で、現代美術界の巨匠は何を感じ、どんな“対話”を展開したのだろうか。
〈私の声が聞こえますか-〉。断片的なささやきが、本館1階のそこかしこから聞こえてくる。他愛のない会話の切れ端、はたまた重要な証言のようでもある。展示室には作品らしきものは見当たらない。ボルタンスキーは歴史ある装飾的空間に、形のない「声」の新作を組み合わせた。「あらゆる意味で豊かな場所なので、控えめなものにしなければと思った」。個展に合わせた来日講演で、彼はこう語っている。