世界最大級の会計事務所PwC内の新規事業を競う「グローバル・イノベーション・チャレンジ」がこのほど、エクスペリエンスセンター(千代田区大手町)で開催され、世界74地域、185件の応募の中から選ばれた6組によるピッチコンテストや、芸術作品を“再現”するクローンアートのセッションなどが行われました。
クローンアートのセッションには、東京藝大で長年、文化財保存学専攻保存修復日本画研究室の教授として後進の育成に取り組む一方、社会連携センター長として「クローン文化財」をはじめとする芸大発のイノベーションを世界に発信してきた宮廻正明氏が登場。最先端テクノロジーとアナログな職人技を融合することで、著名な芸術作品や失われた文化財などを、外見だけでなく成分まで実物とそっくりに再現するクローンアートの現状と可能性について、説明し、聴衆の注目を集めていました。
会場には、オルセー美術館(仏パリ)が所蔵するゴッホの自画像(1889年)を、完成した当時の状態に再現した“クローン自画像”や、歌川広重らによる浮世絵の“クローン”に香りを付けた作品などを展示。宮廻教授と一緒に作品を鑑賞したPwCの代表執行役員CEOパートナーの足立晋氏は、触ることもでき、視覚以外でも体感できるクローンアートのポテンシャルの高さに感じ入っていました。
このほか、1949年の火災で焼損した法隆寺金堂壁画(奈良県斑鳩町)や、2001年にイスラム原理主義を掲げるタリバンによって破壊されたアフガニスタン・バーミヤンの壁画の“クローン文化財”が展示され、海外からの参加者も、再現技術の高さに驚いていました。
クローンアート鑑賞後、足立CEOは宮廻教授と対談。「会計士や税理士が行っている業務は、将来的にAIで代替できるでしょう。そのため、ビジネスモデルを変えなければならないですね」とした上で、スーパーテクノロジーとスーパーアナログ(職人技)によって生み出されるクローンアートと同様、プロフェッショナルな技(決断)を担う人材の重要性を強調しました。
また、宮廻教授も、「最終的な目標は、人を育てること」とし、「赤と青が混ざって紫になっている世界ではなく、赤と青の粒子が混在し、それぞれの尊厳が尊重されているような平和な世界を目指したいです」と語ったのに対し、足立CEOは「ビジネスの成功が、そのような平和につながる仕事をしていきたいですね」と応じていました。