6月末で閉店してしまった六本木の青山ブックセンター。上京してからの思い出も詰まったこの店で、ちょっとセンチメンタルな気分でいつものように ファッション雑誌のタイトルチェックをしておりました。これはもう職業病みたいなもんです。紙メディアの危機とはいえ、やはり平積みされた雑誌を眺めると時代が見えてきます。この日目に止まったのは、「ちょっとだけ丁寧な暮らし」という『CLASSY. 』の7月号。この時期、他誌では着回しネタが花盛り。ファッションではなく、「暮らし」をタイトルにするとは、なかなか思い切っていて、なるほど、と納得です。
昨年からSNSに出回る「# 丁寧な暮らし」という言葉。その背景もわかります。流行に疲れ、ファストファッションに疲れ、コンビニご飯や使い捨てカルチャーに疑問を持ちだした人が周囲にも増えてきました。私のタイムラインにも、友人たちによるプロ顔負けのキャラ弁、手づくりスワッグ、おしゃれプレートランチ、なかには味噌を仕込む人などの投稿も並びます。 主婦だけではなく、仕事をバリバリしているワーママたちまで。 その奮闘ぶりには本当に頭が下がります。
「#丁寧な暮らし」でインスタをチェックすると、皆さんの「丁寧」ポストがいっぱい出てきます。丁寧なランチ、丁寧な収納、丁寧なお風呂場、丁寧なトイレ、丁寧な子育て。丁寧という言葉には日本人らしい、細部まで気を遣った美意識を感じます。先ほど紹介した『CLASSY. 』の巻頭の企画は、「朝が似合う人の9つの素敵な習慣」。す、 素敵すぎ。そして、無理!!絶対無理!!という私の心の叫び。毎日ドタバタ仕事に出かける自分を恥じ、落ち込んだり。記事の内容は理想、そう割り切っても、やはりプレッシャーが押し寄せます。
昨年『「家事のしすぎ」が日本を滅ぼす』(佐光紀子著、光文社刊)という本が出ました。日本の家事労働がいかに「丁寧さ」を礼賛し、それが呪縛にもなっているのでは?と論じる本です。私の友人が子どもに持たせるランチは、食パンにジャムを塗ってジップロックに入れるだけ。日本のキャラ弁画像を見せると、びっくりしていました。「子どものためにそこまで しなくちゃいけないの?」と。家事労働の丁寧礼賛は、行き過ぎれば真面目な女性たちにとって呪縛になります。夫からはなかなかもらえない褒め言葉。しかしSNSにアップすれば、 赤の他人からの「いいね」をもらえるという欲求の充足。
一方で、私の友人が始めた「#最低限料理研究会」というハッシュタグがあります。食べ盛りの子どもを育てた、ワーママの彼女が生み出した「手抜きしてもうまいメシ」がとても大好きです。フライパンでつくる石焼きビビンバとか、最高すぎ。コンビニ素材で美味しくできちゃう、本誌の人気連載「めしうまナイト」も神! 自分のだめさを棚上げしてなんなのですが、「丁寧」はたまに休まないと息が詰まります。子育てもそう。先日、ある議員の「赤ちゃんはママがいいに決まっている」発言などありましたが、そういう社会の目がママを苦しめます。幸せはバランスあってこそ。手抜き 、マイペースで 。頑張りすぎずに、たまに丁寧くらいがいちばんハッピーになれそうです。
THIS MONTH'S CODE
#「朝が似合う人の9つの素敵な習慣」
『CLASSY.』(光文社)一部抜粋。「5、簡単で可愛いトーストを朝ごはんに・・・(中略)8、30分早く家を出てちょっとだけ勉強をする 9、たまの週末は走ってみる」など、素敵だけど、なかなかハードル高め。
#最低限料理研究会
ライターの紫原明子さんが提唱。わたし的には、「温かいご飯の上に木綿豆腐と長ネギの小口切り、 鰹節をふりかけて、醤油をぐるっとかけ、ぐちゃぐちゃにして食べる豆腐飯、がオススメ。
#「赤ちゃんはママがいいに決まっている」発言連の会合での発言
今年5月の萩生田衆議院議員の宮崎議連の会合での発言から。