次の秋冬のトレンドをチェックしていると、『WWDJAPAN』の特集記事※で「グランパコア」という言葉が目に飛び込んできました。はて?「コア」とは〇〇系という感じで使う言葉です。この連載でも「ノームコア」や「バレエコア」を取り上げてきましたが、2000年代風のY2Kブームの次は“おじいちゃん”系?ちょっと飛躍が激しすぎる(笑)。
たしかに、2024AWコレクションを見ると、ツイードジャケットや、アーガイル柄やジャカードニットをジーンズやチノパンに合わせて野暮ったく着こなしているのを見かけます。前出の記事では“おじいちゃんが着古したような服”がポイントとあります。50代以上ならわかる、『POPEYE』や『Hot-Dog PRESS』 でみんなが夢中になったトラッドスタイルの復活です。
ここ最近出会ったファッションの専門学校の生徒を観察していると、ほとんど古着を着ているんです。オーバーサイズ気味の古めのジャケットを着ているなあと思っておりました。おしゃれ男子は下北沢あたりで古着を着ている説。決して港区にいるタイプではありません。メタルフレームのメガネをかけてヘッドフォンをつけて、そこは令和系。その源流といわれているのがBTS。そしてポイントは、「どの年代のおじいちゃんか?」というところです。
Z世代のおじいちゃん世代は、いまや60~70代になります。70年代から80年代、おじいちゃんが浮かれてディスコに行っていた昭和時代にはやっていたのが、まさにIVYであり、トラッドスタイルなのです。
その当時のクローゼットの中にあった服がポイントです。とはいえ、昔のまんまで着こなしちゃうとダサくなっちゃうので、そこはアップデートが必須。
「グランパコア」は、メンズだけのトレンドでもありません。ジェンダーを越えて、マニッシュなアーガイルニットやレザージャケット、ツイードジャケットなどがこの秋にはやりそうです。
ではなぜ、若い世代がグランパスタイルをするのでしょうか?「なんか、流行とかってカッコ悪くないすか?」と語るのは、22歳のアパレル勤務男子。「古着って、素材とかデザインとかにこだわっていて、かっこいいなって思うんです」と。
彼は最近、カセットテープにハマっているのだそうです。令和から平成を越えて、昭和がいちばんかっこいい。ChatGPTもApple Vision Proもある2024年。その一方で、カフェよりも喫茶店、ハイブランドよりも古着と、彼らがクールだと思うものが、手仕事やうんちくがつまった昭和トラッドスタイルなところが面白いのです。
生成AIの登場などによって、リアルとバーチャル、本物と偽物の境界線がなくなりつつあるからこそ、「本物」や「歴史」や「肌触り」といった五感を刺激する本質的なものの価値が高まっているみたい。
旧世代の私としては、「新しい」ことを追い求めすぎて、いかに自分の立ち位置がわからなくなっていたのかを思い知らされました。まさか、過去のトラッドがおしゃれと言われるなんて思ってもいなかった。Z世代から、古くて普遍なものの大切さを教えられたような気持ちです。
「流行ってカッコ悪い」、この言葉がずっしりと響きます。とはいえ、こうやって「グランパコア」も時代に流されていくのか?その先が気になりますね。
THIS MONTH'S CODE
#『POPEYE』や『Hot-Dog PRESS」
70年代後半に創刊された男性向け情報誌。ファッション特集も数多く組まれ、男子大学生のバイブル的な存在で、IVYブーム、渋カジブームなどを生み出した。
#メタルフレームのメガネ
《GENTLE MONSTER》などで人気が高いのはジェンダーレスな大きめのメタルフレーム。
#カセットテープ
中目黒にあるカセットテープ専門店「waltz」をはじめ、専門コーナーも増えているカセットテープ。山下達郎、レディー・ガガなど、カセットテープで作品をリリースするアーティストも増えている。