photography=SAORI TAO

vol.3 雪原に生まれ変われるほど泣いて泣き飽きたころ春がくること[岡本真帆のうたかたの日々 日付のない日記]

コラム

雪原に生まれ変われるほど泣いて泣き飽きたころ春がくること

 朝、換気のために窓を開ける。張り詰めた冷気が一気に流れ込み、肌を打つ。空気が刃物みたいに冷たい。冬が来る。いや、もう始まっている。この瞬間、心が折れそうになり、思わずべそをかきたくなる。

 とにかく寒いのが苦手だ。冷気が強まると、私の動きはたちまち鈍くなる。だんだん、冬から攻撃されているような気がしてきて、被害者意識が膨れ上がる。「なんでそんなことするの!」と寒さにキレてしまう。そして結局、ダンゴムシのように丸まり、ベッドやソファから起き上がれない。本当は、立って、歩いて、働いて、活動的に過ごしているときのほうが断然調子が良いのに。短歌が春や夏の作品ばかりなのは、血流が良いほうが、心の調子も上向くからなのだろう。

 私は、12月から2月までの3カ月間だけ、毎年極端に調子が悪い。寒さと年末年始の忙しさが重なり、自分のペースを完全に見失ってしまうのだ。

 だけど、「具合の悪い季節がくるぞ」と覚悟して冬を迎えると、そのあとの暗くて冷たい、絶望めいた日々にも、なんとか太刀打ちできる気がする。3カ月、耐えればちゃんと春はくる。だからがんばれ——そうやって、ここ数年は自分を奮い立たせている。


岡本真帆(おかもと・まほ)
歌人・作家。1989年生まれ。高知県出身。2022年に第一歌集『水上バス浅草行き』(ナナロク社)、2024年に第二歌集『あかるい花束』(ナナロク社)を刊行。最新刊に、自身の好きなものを短歌とエッセイで表現した『落雷と祝福』(朝日新聞出版)がある。



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