illustration: Yurina Sato

日本人が知らない #ネオ・ジャポニズム《東京#CODE》


 先日のゴールデングローブ賞で『SHOGUN 将軍』が見事、作品賞など4冠を達成しました。真田広之さん、浅野忠信さん、アンナ・サワイさんが並んだあの授賞式のシーンは、歴史的な瞬間でした。なによりも、日本の戦国時代を舞台にしたドラマが、日本人のプロデュースによって、セリフの多くは日本語で制作され、日本人俳優がアメリカで賞を取るなんて。かつて、島田陽子さんがヒロインを務めた同原作のドラマが1981年に受賞した当時とは、環境もずいぶん変わりました。

 世界中でいま、“日本”がブームです。先日放送されたNHKスペシャル「新ジャポニズム」の第一回放送でも、世界各地で起きているマンガ人気を取り上げていました。古くは江戸時代のパリ万博で浮世絵人気が高まったことにはじまり、現代のクールジャパンに至るまで、ジャポニズムブームは何度も繰り返されています。

 かつて「富士山、芸者」と言われた紋切り型な見方から、最近の海外から見た日本のイメージはもう数段階、解像度が高まっているようにも感じます。先日、高野山に行ったときのこと。インバウンド客が日本人観光客の数を上回っていることに驚きました。そこで出会ったアメリカ人やロシア人の観光客に「なぜ、高野山に来たのですか?」と聞くと、口をそろえて「ZEN OUTがしたかった」と答えるのです。事前に高野山のことや、空海のことなどをきっちり調べて、宿坊に泊まり、坐禅を組み、精進料理をいただくなど、日本の文化を深く知ろうとしていることに驚きます。同じような体験を熊野古道でもしました。山道を歩いていると、圧倒的に外国人に多く出会います。あるフランス人は「熊野古道は巡礼の道だから来た」と話してくれました。

 外資系の会社に勤めていたときに、海外の同僚からよく聞かれたのは禅、茶の湯、武士道についてでしたが、最近とくに人気の日本語は森林浴、生きがい、そして変わらず禅なのだそうです。先日行った早稲田松竹では小津安二郎監督特集を開催していて、その日は『東京物語』を英語字幕つきで上映していました。座席もほぼ7割が埋まっていたのですが、たしかに場内には外国人の方も多くいるのです。

 いま起きているジャポニズムブームは、かつてのものよりも日本の精神性や神性を理解しようとする傾向が強いように感じます。マンガ、アニメブームの根底にあるものも、単にキャラやビジュアルの面白さだけではなく、ジブリ映画に描かれるような日本古来の神聖な世界や、勇気づけられる物語性です。かつての欧米的なヒーローものや自己達成的なストーリーではなく、もっと家族的で優しい利他の世界。たとえば『鬼滅の刃』など、家族愛や仲間がテーマになったものへの関心が高いように感じるのです。世界中で起きている紛争や戦争は終結が見えず、さまざまな災害の不安も多いこの時代に、日本の平和的な文化から伝えられることがあるんじゃないか、と。

 このごろ、私の周りの10代、20代の子と話すと、古き日本がかっこいい、という声をよく聞きます。彼らもまた、日本を学びたいと思っています。なおさら、私たち大人がもっと日本を誇りに思い、日本を知ることが大切だと痛感するのです。海外の人にももっと伝えていけたら。まずは学び直しが必要ですね。

THIS MONTH'S CODE

#『SHOGUN 将軍』

ディズニープラスで2024年から配信されているドラマ。原作は1975年に発表されたジェームズ・クラベルによる歴史小説。アメリカ・NBCがドラマ化して1980年に放送し、その際にもゴールデングローブ賞で作品賞、男優賞、女優賞を受賞している。

#ZEN OUT

リラックスした状態を指す言葉。禅(ZEN)体験によって導かれるマインドフルな状態のこと。

#禅、茶の湯、武士道

海外でとくに人気の本は、新渡戸稲造の『Bushido』、岡倉天心の『The Book of Tea』、鈴木大拙の『Zen and Japanese Culture』。これらは必読なのだとか。





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