illustration: Yurina Sato

#諸行無常TOKYOで失われないものって?《東京#CODE》


 「あれ、もうないんだ」。六本木ヒルズ下のスタバに行ったとき、その前にぽっかりと空き地が広がっていました。街が変わっている。新しい商業施設やショップのオープニングには敏感なつもりでしたが、このところ街のアップデートのスピードについていけません。渋谷駅のハチ公改札がいつの間にか宮益坂側に移動していたり、センター街にはそれまでなかったお店が突然出現していたり。新宿の風景も随分変わりました。街の変化といえば、大好きだった老舗が再開発や後継者不足などで閉店することも増えています。そこで私は、個人的に残したい老舗にはできるだけ通うようにしています。諸行無常、形あるものはいつかは壊れる。であれば、いまあるものをできるだけ愛でて、味を舌に記憶させ、お金も落とす、ということです。今年からは六本木5丁目西地区の再開発が本格的に始まります。ここの風景もいまでしか見られないもの。あのロアビルや芋洗坂や鳥居坂のあたり。古い路地や建物を、できるだけ歩いて目に焼き付けておきたいと思うのです。

 そんななか、最近よく通っているのが名画座やミニシアターです。映画を見ようと思っても、シネコンばかりで見たい映画がない、というときにありがたい存在です。先日はシネマート新宿で『ブラック・レイン』が6日間だけ上映されていました。これだけ配信で映画が見られる時代ではありますが、映画館の大画面で見る松田優作にしびれました。周りを見渡せば優作ファンのおじさまたち(革ジャンにサングラス、そこもエモい)や若い世代の人で満席です。知らない人と共有するあの空気感。先日亡くなったデヴィッド・リンチの映画もまた、ポップコーンの香りと音響と映像の迫力、劇場を出て街に溶け込むところまで、すべてが映画なのだと思わせます。映画を見た後に新宿3丁目を歩くと、ちょうど末廣亭の高座が終わったところで、たくさんのお客さんが流れ出てきました。人気の演目があったようで、なかなかの盛況ぶり。ミニ劇場の聖地、下北沢でも連日どこかで演劇が上演されてこちらも大人気。学生のころ、『ぴあ』にふせんをつけて劇場巡りをしていたことを思い出します。 

 コロナのタイミングで、否応なくリモートや配信系で我慢していただけに、生(ナマ)の体験への渇望が、こういったリアルエンタメに人を回帰させているのでしょう。また、新作だけでなく旧作や名作を、若い世代もディグっていることが、なにより頼もしいと思います。新しさだけが価値じゃない、新作もアーカイブも並列に探せるネット社会だからこその現象なのでしょう。その裏には、経営が大変でも踏ん張って、ミニシアターや名画座などを支えている人たちがいます。ありがたいことです。再開発で失われる風景もあるけど、こういった過去の価値を残していくこと。そして、それらを支える人たちを、消費者である私たちが支えることも大切だと思います。

 さて、私のこの連載は今回で最後となります。2014年にスタートしてから10年半。長い間、毎月お付き合いいただいた皆さま、本当にありがとうございます。通勤電車のちょっとした時間を楽しんでいただけたなら、うれしいです。“変わらぬものはない”。またどこかでお会いしましょう!

THIS MONTH'S CODE

#六本木5丁目西地区の再開発

森ビルと住友不動産による再開発事業。 “第2六本木ヒルズ”計画とも呼ばれる。2025年度に着工し、30年度の竣工を目指している。

#『ぴあ』

1972年に創刊、2011年に休刊。総合エンタテインメント雑誌として最盛期には50万部以上を売り上げ、若者カルチャーを牽引した。いまこそ復刊してほしい(願望)。

#またどこかで

今後、コラムなどを不定期にnoteなどで書いていきます。フォローをよろしくお願いいたします。





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