text=TAKAMASA KUJIRAI photography=SHUHEI KISHIMOTO

vol.5 上田優紀(写真家)[観る・聴く・読む・考える 光が紡ぐ言葉]

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 映画、音楽、演劇、小説にアニメーション......日々新しい文化芸術が生まれる街で、そのつくり手たちは、どんなことを考えているのだろうか。今回は、世界の辺境や極地を旅して自然や動物を撮影する写真家の上田優紀さんにインタビュー。


「世界は美しい」と信じて。

 「今年は“七大陸最高峰登頂”を成し遂げたいですね」

 そう話すのは、人が足を踏み入れることの難しい過酷な地で撮影する辺境写真家・上田優紀さんだ。上田さんは、24歳でサラリーマンを辞め、世界一周の旅に出た。その道中、アイスランドで旅の写真を子供たちに見せると、彼らは途端に目を輝かせた。

 「その光景を見て、『ああ、これに人生をかけるべきだ』と感じました。だって、その時の僕は無職ですよ。カメラだってたまたま持っていただけ。『まだ見ぬ景色や世界を伝えることで、誰かの心をその一瞬でも豊かにできるんだ』って衝撃だったんです」

 そんな使命感から、写真家の道へ。「自分なら過酷な地で撮影できる」と、独立して初めて訪れたウユニ塩湖で洗礼を受けた。

 「40日間、一人でテントを張って過ごしました。まず雨上がりの光景を撮りたかったけど、まったく雨が降らず、最初の2週間は何も撮れなかった(笑)。しかも、脱水症状になるし、近くで雷が降り注ぐ。あの時に初めて自然の恐ろしさと、とてつもない孤独感を味わいました」

 旅先はいつも過酷な地。死がよぎる瞬間も何度も味わってきた。

 「僕の旅は、撮って帰って見てもらって意味が生まれてくる。だからなのか、生き抜くことが自然と浮かびます。でも不思議なのが、そういう僻地に行く時は、夏目漱石の『こころ』と、太宰治の『人間失格』が欠かせないんですよ。無性に読みたくなる。山にいると足りない栄養がわかるんです。それと同じで、人に飢えるのか、生々しい人間らしさを求めているのかもしれないです」

 過酷な地へ赴く上田さんには、アスリート同様、体力的な寿命がある。北アメリカのデナリ、南アメリカのアコンカグア、そして南極のヴィンソン・マシフを登れば、七大陸最高峰登頂は達成するが、その先に目指すのは?

 「世界一登頂が難しいといわれるヒマラヤK2ですね。チベット側からエベレストにも登ってみたいし、カナダとアラスカの国境の森に住む白熊『スピリットベア』にもまた会いたいなぁ。それから宇宙。昨年、人工衛星で撮影する機会がありましたが、いつか宇宙空間に出てシャッターを切りたいです。あっ、あと先日のイタリアの撮影はめっちゃ楽しかった!シチリアは酸素もあるし、人もいる。ジェラートもおいしかった!僕にしか行けない場所、撮れない写真はまだまだあるはずだけど、それを果たしたら、普通の旅もしたいですね(笑)」


□1988年、和歌山県出身。2016年よりフリーランスとして活動し、ヒマラヤの8000m峰から水中、南極まで世界中の極地や僻地を旅しながら撮影を行なっている。2021年にはエベレスト(8848m)を登頂。著書に『エベレストの空』(光文社)など。


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『七大陸を往く 心を震わす風景を探して』

著者:上田優紀
出版社:光文社
価格:1760円
発売中



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