雪持ちの欅の空へ押しボタンゆっくりでいいと願いつつ立つ
日曜日。目が覚めた瞬間からパンケーキが食べたかった。ロイヤルホストのパンケーキだ。3段重ねで、まんなかにホイップマーガリンが乗っていて、シロップがたっぷりとかかっているあれが食べたい。近々絶対にモーニングを食べに行こうと思っていたのだが、その「近々」は「絶対に今日」だった。布団から抜け出し、リビングのカーテンを開けた。
大雪。寒波の到来で、東京は昨夜から雪の予報だった。現在進行形で降っていて、斜めに吹雪いている。私はよろよろと倒れ込み、ホットカーペットの上でブランケットに包まれる。ああ、もう、無理だ……。バスに乗るつもりだったけれど、出かけるのは危ないかもしれない。パンケーキへの想いと、悪路の怖さが、天秤でぐらぐらと揺れる。
仰向けになって、白い空と降り続ける雪をしばらく眺めていた。
寒さにはめっぽう弱いけれど、雪が降るのは嬉しい。よく知っているはずの街が、雪の白さによって知らない顔になるからだ。私はブランケットをはねのけて、ベランダへ出た。肌がきゅっと寒さに反応する。いつもならこの冷気が嫌なのに、雪の日はそれすら特別に思える。
あの道は、あの公園は、今どんな様子なんだろう。それをどうしても確かめたくなった。
決めた。自分でパンケーキを焼こう。ゆっくり歩いてスーパーへ行き、材料を買おう。たっぷりバターを塗って、シロップもふんだんにかけよう。苺だって乗せちゃおう。
私は手袋を嵌め、ダウンジャケットを羽織り、雪の街へと踏み出した。
岡本真帆(おかもと・まほ)
歌人・作家。1989年生まれ。高知県出身。2022年に第一歌集『水上バス浅草行き』(ナナロク社)、2024年に第二歌集『あかるい花束』(ナナロク社)を刊行。最新刊に、自身の好きなものを短歌とエッセイで表現した『落雷と祝福』(朝日新聞出版)がある。