【トラハブリポート】交流イベントリポート オリエントコーポレーションの岩瀬香織さんと語り合ったDEIの進め方

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Ridgelinez(以下リッジラインズ)と産経新聞社が立ち上げた、対話を通じてDEIを体感する業界横断型コミュニティ「DEI Transformation HUB=トラハブ」の交流イベントが2025年12月17日、リッジラインズ本社(東京都千代田区)で開かれた。DEI推進に関心のある企業担当者ら約20人が参加。ゲストスピーカーの、オリエントコーポレーション(オリコ)インクルージョン&ダイバーシティ推進室長、岩瀬香織さんから取り組みを聞き、課題の乗り越え方について参加者同士で語り合った。

■おさらいしよう、トラハブとは

トラハブは2024年にリッジラインズと産経新聞社が共同で立ち上げたDEIの「学びの場」だ。1年目は計3回のワークショップを開催。「対話」を通じて、職場で感じるモヤモヤや課題を「共有」し、カルチャーとテクノロジーの2つの視点から、モヤモヤの背景にある原因を「解明」。個人の意識変革から組織の変革につなげる新たなアイデアへ「変換」することを目指して活動した。

2年目の2025年は、トラハブを、業界をまたぐDEIのコミュニティへと育てることを目標に準備を進め、交流イベントの実施に至った。

■過去のトラハブ参加者がゲストスピーカーに

今回、DEI実践者として自社の取り組みを紹介してくれた岩瀬さんは、2024年11月に開催された2回目のワークショップに参加した〝トラハブの経験者〟だ。

2024年11月のワークショップの内容はこちら

岩瀬さんが勤務しているオリコは創業70年を超える大手信販会社。岩瀬さんによると、長年、他社との合併もなく、新卒で採用された人が定年まで勤め上げるケースが多い「同質性の高い企業だった」(岩瀬さん)という。近年はそうした組織文化を変革しようと制度改革に着手しており、岩瀬さんは現在、会社の変革に携わるDEI推進のリーダーでもある。

そんな岩瀬さんだが、開口一番「私自身、ついこないだまで、〝アンコンシャスバイアス人間〟でした」と打ち明けた。現在の役職に就くまでに、どんな「個人の変革」があったのだろう。

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オリエントコーポレーションの岩瀬香織さん

岩瀬さんにとって、自己変革の〝はじめの一歩〟となったのは、管理職研修の一環で取り組んだフィールドワークだったそうだ。

「他社の女性の健康支援策を調べたり、フェムテックをテーマにした展示会に足を運んだりする中で、産経新聞社の『フェムケアプロジェクト』に取り組むメトロポリターナの日下紗代子編集長と出会い、トラハブの存在を知りました。誘われて参加したトラハブのワークショップでの体験が、私自身を大きく変える転換点になりました」

そのとき岩瀬さんが参加したのは、ロールプレイング型のワークショップだった。

「『大学生です』というと、企業に就職する前提で話をする大人が多い…進学・休学・企業・キャリアは多様ですよね」 という実際に大学生が吐露したモヤモヤをお題にして、岩瀬さんを含む数人の参加者が、カードを引いて決まった役割(モヤモヤを抱える大学生・先輩・母親・友達など)になりきり対話を進めるワークを行った。

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このとき、岩瀬さんが引いたのは、「大学生」のカードだったが、

「この大学生が抱えるモヤモヤを私自身はまったく理解ができず、役になりきることが難しいなと感じてしまったんですよね」

「それって、つまり、私自身が『大学を卒業したら、就職するのが当たり前』と、長年なんの疑いもなく思い込んでいた・・・ってことで。私ってアンコンシャスバイアス人間じゃん!ということを突きつけられた出来事でした」

「自分とは違う人の視点に立つことで、こんなにも見える景色が違うんだということを、このワークショップで体感することができました。いまでも一緒にワークをした人たちの顔が思い浮かぶくらい、そのときの印象は強く心に残っています」 

と当時の体験を振り返った。

■トラハブで得た「気づき」を、自社でも実践

トラハブでの体験を含め、管理職研修で取り組んだフィールドワークの成果を社内で発表した結果、岩瀬さんは2025年4月から、社内のDEIを担う現職に抜擢された。

社内でDEIの実践に取り組むにあたって、大切にしていることは「仲間とともに会社の外の人と会って話を聞いて視野を広げること」。人脈を地道に増やし、約40社の女性管理職を集めた100人規模の異業種交流セミナーの開催にもつながった。

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「セミナーの企画運営は推進室のメンバーが主体的にしてくれました。私としては、トラハブで知った、自分の会社以外の人との対話で得られる気づきの大きさを、一人でも多くの人に伝えられたら・・・という思いが強く、メンバーと共に異業種の人々が出会える場を作ることにこだわりました」(岩瀬さん)。

この取り組みは、女性の自律的キャリア形成を後押ししたと高く評価され、令和7年度「東京都女性活躍推進大賞」にも輝いたそうだ。

■意見交換も活発に

岩瀬さんの話の後は、参加者も交えた意見交換の時間となった。

聴覚障害者向けのコミュニケーションツールを開発している企業「ピクシーダストテクノロジーズ」に勤める川田夏希さんは、「普段お客様と話して感じるのは、DEIの推進はツールがあれば解決するのではなく、ツールとともに組織のカルチャーや人と人との相互理解が欠かせないということ。障害のある人の働きやすさという面でのインクルージョンを広げていきたいので、トラハブに集まったみなさんの取り組みを聞いて、どういうふうにDEIを推進しているのか、ヒントをもらえたら」と話した。

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仕事と育児の両立支援について、人事部と労働組合が協同でプロジェクトを立ち上げ、活動している産経新聞社からは、木下慧人・人事部次長と、木村久美子・産経労働組合執行委員長が参加。木村委員長は「DEIの施策は、『やりたい』『やる必要がある』という志をもった有志の活動として始めることが有効で、そういう仲間をどう増やしていけるかが成功のカギとなるのではないかと改めて思いました」と感想を述べた。

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重工業メーカー大手IHI人事部DE&Iグループの井上愛美さんは「私たちの会社でも社内副業制度を活用して、従業員有志が、ジェンダーギャップ解消に取り組む活動しています」と事例を紹介した。続けて「今後は、DEIがどうビジネスにかかわれるのか、もっと事業の現場と一緒に探っていきたいと思っていますが、現場の方々にどう働きかければよいのか悩ましい面もありますね」と問題提起した。

「DEI推進がビジネスにどう結びつくのか」という問いは、参加者が共通して抱える課題として受け止められた。

DEIと業績は、相関関係はあるけれど、因果関係はないともいわれる。どんな施策が効いて業績につながったのか見えづらいという現実もある。

「ただ、社会は着実に変化している」と語ったのは岩瀬さんだ。

「会社の近くにある大学に話を聞きに行ったところ、今の高校生や大学生は多様性が当たり前の環境に生きていて、DEIのない企業は若者から選ばれない時代になっていると感じた。1社で取り組むだけでは、社会を変えられないけれど、いろんな企業が足並みをそろえてDEIを進めていけば、風を起こせるのかなと信じている。小さな一歩を続けていくことを大切にしていきたいですね」

=今後もトラハブの活動を、随時掲載していきます


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