All Images©Rijksmuseum van Oudheden (Leiden, the Netherlands)

ライデン国立古代博物館所蔵 古代エジプト展 - 美しき棺(ひつぎ)のメッセージ -


 4月16日(金)から「ライデン国立古代博物館所蔵 古代エジプト展 美しき棺のメッセージ」がはじまる。これまで古代エジプト文明の展覧会は数多くあったけれど、これはちょっと違うらしい。いったい、なにが違うのか。監修者の中野智章教授に話を聞いた。

 

ライデン国立古代博物館のコレクションはなにが違うのか

 1798年、ナポレオンがエジプトへ侵攻した。この遠征には多くの学者たちも帯同したという。そして彼らが、文字どおり埋もれかけていた古代エジプト文明に、再び光を与えることになる。以降、フランスとイギリスは、競い合うようにこの地の発掘調査をおこなうようになる。しかし、ナポレオンがエジプトの地を踏む100年以上前から、エジプトと交流をしている国がヨーロッパにはあった。それが、当時の海上帝国オランダだ。

 「所蔵点数の多さでいえば、大英博物館やルーヴル美術館に軍配が上がります。けれど深さや幅広さという視点から見ると、オランダのライデン国立古代博物館のコレクションはとても充実しています。それは海洋国家であるオランダが、脚光を浴びる前からエジプトに進出をしていたからです。また、ライデンが学術都市であるということもコレクションの特徴につながっています。つまり、医学などの学術研究のために集められた良質なコレクションが多いのです」

 そう語るのは、「ライデン国立古代博物館所蔵 古代エジプト展」の監修を務める中部大学の中野智章教授だ。ミイラや黄金だけではない。紀元前に数千年続いた古代文明の遺物が幅広くそろっているのがライデンのコレクションであり、だからこそ、ひとつの文明の興亡を俯瞰できる展示構成を本展では目指したという。

 「ひと口に古代エジプト文明といっても、その歴史は長大です。ツタンカーメン、ピラミッド、クレオパトラといった人物や建造物も、それぞれに1000年以上の時間差があります。だから今回は、古代エジプト文明の全体像も伝えられたらなと思っています」

 

知的好奇心を刺激する考古学研究の最先端を知る

 加えて、その展示には文明研究の最先端の知見も添えられている。そうした知識をもつことによって、展示物を見る目もまた変わってくるという。

 「たとえば、石碑に彫られた人物。見ればひと目で古代エジプトだとわかる雰囲気の絵ですが、これはとても特殊な描かれ方をしています。顔は横を向いているのに、目の位置は正面を向いているようになっていて、胴体は正面、そして下半身はまた横向きに。土踏まずも両足描かれています。つまり、実際にはあり得ない描写なんです。けれどこれは、絵が下手だったわけではない。厳格に定められたルールに則って、描かれているんです。当時の絵というものは、現代でいう美術やアートとは違います。人に見られることを前提としていません。絵や文字を描くということは、情報を伝達するためのものではなく、もっと特別な行為だったのです。何かを描くことは、命を吹き込むことであり、ある種の呪術的な意味があった。だからルールがあり、あのような不思議な描写の絵になっているのです」

 

立ち並ぶ12点の棺とミイラのCTスキャン画像

 展示会場では、ミイラが収められていた棺12点が、立てた状態で並んでいる。それは、そこに描かれた象形文字や絵を、見やすくするためだ。だが忘れてはならないことは、これらが人の目に触れるために描かれたわけではなく、死者が、死後の世界で守護を得るためのまじないであるということ。棺にどんな言霊が刻まれているのか…、キャプションを読み、そこに込められた意味に思いを巡らせてみてほしい。また、本展では、貴重な遺物約200点の展示に加え、完全に布に包まれた状態のミイラをCTスキャンし、その分析結果も初公開される。ミイラの中身はどうなっていたのか…、その意外な発見はぜひ会場で確認を。

 

古代エジプト文明からいまの時代を考える

 日本では、いままでに30以上の古代エジプトに関わる展覧会が開催されてきたが、その多くは、ミイラや黄金といった、見た目の物珍しさや豪華さといった部分にフォーカスが当てられていた。けれど、本展はそれだけではない。知識をもって遺物を見れば、古代文明のさらなる深淵をのぞくことができるはずだ。そして、そこにはきっと私たちを強く惹きつけるものが待っている。

 「“エジプトはナイルの賜物”と言われています。ナイル川の氾濫が、この地に肥沃な土を運び、そのおかげで文明が発達しました。自然に対して強い畏怖の念を抱いていた文明です。神様もたくさんいますし、じつは日本と似ているんです。だから、私たちは古代エジプト文明に惹きつけられるのかもしれません」

 ひとつの文明がどう始まり、栄え、滅びたか。それを知ることは、現代社会を考えるためのヒントになるかもしれない。

200点以上の遺物が並ぶ

 ナイル川流域では、紀元前5000年頃から文明が萌芽し、紀元前3000年頃に、統一国家(第一王朝)が誕生。紀元前30年のローマ帝国による征服まで、 およそ30の古代エジプト王朝が続いた。この展覧会では、その長い文明の歩みをライデン国立古代博物館が所蔵する200点以上のコレクションで紹介する。右の棺は紀元前722〜655年頃のもので、棺に描かれている文字や絵は、死者が来世に到着し永遠の生を享受することを保証している。

metro218_egypt_04.jpgホルの外棺[ 後期王朝時代/(蓋)長さ199cm、幅72cm、高さ38cm]

metro218_egypt_01.jpgパディコンスの『死者の書』[第3中間期/縦24.5cm、横61.2cm]

metro218_egypt_02.jpgクウと家族の供養碑[中王国時代/高さ38cm、幅50cm、厚さ6cm]

metro218_egypt_03.jpg

金彩のミイラマスク[グレコ・ローマン時代/長さ48.5cm、幅28cm、厚さ14cm]


《INFORMATION》

ライデン国立古代博物館所蔵
古代エジプト展 -美しき棺(ひつぎ)のメッセージ-

ヒエログリフを聞くことができる音声ガイドも

 音声ガイドのナビゲーターは、俳優の西島秀俊。解説の語り手は、声優の森川智之が担当し、石碑に描かれたヒエログリフの音読にも挑戦している。失われた言葉を耳にする貴重な体験ができる必聴の音声ガイドになっている。

会期:4月16日(金)〜6月27日(日)
会場:Bunkamura ザ・ミュージアム

http://www.leidenegypt.jp


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