はじめてのおつかい(福音館書店)

【絵本に再び出会う】絵が語ること① 「はじめてのおつかい」

コラム,

 字を読めない幼い子供も実に丁寧に絵を味わい、内容を読み込みます。一方で、大人は文字ばかりに気を取られ、絵の面白さに気付かないことがあります。

 昭和52年に福音館書店から刊行された『はじめてのおつかい』(筒井頼子・作、林明子・絵)は長年、子供に読み継がれてきた絵本です。ママに牛乳のお使いを頼まれたみいちゃんが途中、転んだり、「ぎゅうにゅう ください」がなかなか言い出せなかったり…。初めての経験を一人で乗り越えていく子供の心の動きが、鮮やかに描かれています。

 本の裏表紙には「読んであげるなら 3才から」とありますが、R君は1歳半からこの本の絵を喜んで見ていました。みいちゃんの家の台所に描かれている沸騰するヤカンを「アチチ、アチチ」と指さし、隣の家の犬や街並みの中に逃げ出したセキセイインコ、散歩中のトラ猫など、さまざまな生き物を見つけていました。

 これらは文章としては表現されていませんが、犬の存在によって、家からお使い先までの距離や位置関係が分かります。R君は4歳で、そのことに気づきました。字が読めるようになると、散歩中のトラ猫は実は、ひらたさんの家の猫だったことを、町の掲示板で知りました。

 小学生になると、牛乳を買うお店の看板の中から、大発見をしました。細かな絵の描写の中に大人は見逃してしまうような遊び心やお話の伏線となる情報を、R君は成長とともに発見していったのです。

 裏表紙には、けがの手当てをしてもらったみいちゃんが、赤ちゃんを抱いたお母さんのそばで牛乳を飲む場面が描かれています。子供たちは、みいちゃんと同じように初めてお使いに行った喜びと安心感にほっと胸をなで下ろし、絵本を読み終えるのです。

 ここで読者の皆さんに問題です! 林明子さんは、みいちゃんの大切な家族を絵の中にちゃんと描いています。ヒントは「尾藤三」。さぁ、見つけてみてください。(国立音楽大教授 林浩子)

2017年5月26日産経新聞掲載




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