島津和子作『おなかをみせて!』(福音館書店)

【絵本に再び出会う】『おなかを みせて!』 見方や関わり方を広げる

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 子供は想像の世界だけでなく、現実世界もあふれる好奇心を持って見つめています。「あれなぁに?」「どうして?」と、身の回りの世界の不思議さや面白さを感じ、心を動かしながら世界を知っていきます。

 平成26年に福音館書店から刊行された『おなかを みせて!』(「ちいさなかがくのとも」4月号、島津和子作)は虫、カエル、ザリガニ、カメなど、子供にとって身近な生き物を「くるり」とひっくり返すと、それぞれのおなかが現れる絵本です。その、いつもと違う無防備な姿におかしさとともに親しみを感じます。

 私の友人の幼稚園教諭が、3歳児クラスの子供たちにこの絵本を読みました。「かえるは どうかな? おなかを みせて!」「ででーん!」と言葉の響きの楽しさとともにヒキガエルのおなかが現れます。グロテスクな背中からは想像もつかない予想外にユニークなおなかの模様に、子供たちは目を丸くして歓声を上げました。作者自身が発見を面白がり、それを子供たちと楽しみたいという思いが、この絵本の言葉にあふれています。

 絵本を読んでもらってから、3歳児クラスのみほちゃんは、園で飼っているウサギに「おなかをみせて」と話しかけ、ウサギのおなかを必死でのぞきこみました。さとし君は「くるり」と言いながらお気に入りの電車のおもちゃをひっくり返してじーっと見つめ、車や飛行機もひっくり返していきました。クラスでは、「〇〇みせて」がはやりの言葉になり、子供同士が言い合ってはケラケラ笑い合いました。

 子供たちは絵本から単に知識を得るのではありません。絵本を介して、自分を取り巻く人や生き物、ものへの見方や関わり方を広げたり、作り変えたりしながら「本当の世界」をより深く知ろうとしていきます。そこには見つける面白さや、不思議さに気付き、考える姿があります。

 また、その姿は子供だけではありません。この絵本を読んだ後の女子大生の会話です。「男の人も同じだよね。表はイケてなくても裏はすてきな人っているじゃない」「その逆、おなかは真っ黒っていう人もいる」「そもそも、どっちが裏で表なの?」「だから、じっくりと、よーく見るのよね、先生!」

 的を射た彼女たちの言葉にうなずきながら、「結婚したら表だけを見るのよ」という言葉は、今はまだ胸の奥にしまっておきました。(国立音楽大教授 林浩子)

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