©Yuriko Yamawaki 1998,2001,2011

【絵本に再び出会う】『いやいやえん』(中)子供が子供らしく生きる

, コラム

 この本の7つ目のお話が、タイトルにもなっている「いやいやえん」です。保育園の約束を次々と忘れてしまうしげるは、お父さんが買ってきてくれた車が気にいらなくて「いやだよう」、朝ご飯を食べるのも、服を着るのも、保育園に行くのも「いやだい」といやいやばかり。「それならいいことがあります」「いやいやえんなら、しげるちゃんもすきになりますよ」と先生から紹介されたいやいやえんに行きます。

 そこにはおばあさんがいて、友達に乱暴をしても、遊んだものを片付けなくとも、お弁当を食べなくても、何をやっても許されます。しげるがここで過ごす一日が7つ目のお話です。

 この本に描かれている7つのお話全てが、いろいろな出会いや出来事があっても、しげるはしげるのまま変わらずにストーリーが展開していきます。いやいやえんに行ったからといって、しげるがすぐにお利口になって帰っては来ないのです。このことについて、以前、作者の中川李枝子さんと、スタジオジブリの映画監督・宮崎駿さんの対談で興味深い話を聞きました。

 中川さんは映画『となりのトトロ』の主題歌「さんぽ」の作詞を手がけるなど、お二人は親交があります。

 宮崎さんは「中川さんの絵本は全然、賢くない。一般的に、ファンタジーの主人公は冒険をして、賢くなったり成長したりして帰って来る。でも、子供はそんなに簡単に成長しないし、しげるのように、何度も同じことを繰り返す。それが良いし、それが子供の本当の姿だ」と。

 しかし、現代の子供たちに、子供時代を子供らしく生きることが保障されているでしょうか。誰もが昔は子供だったはずなのに、大人は子供により早くと成果を求め、効率的、合理的に子供を育てようとする傾向がますます強くなっていきます。子供の成長には十分な時が必要です。“今そのもの”を味わい楽しみながら、子供はゆっくりと、少しずつ成長していきます。この本には子供が子供らしく生きている世界そのものが描かれています。

 「また、あしたもおいで」というおばあさんの言葉に、しげるは「いや、もう、こない」「あしたになったら、ちゅーりっぷほいくえんにいくんだ」と言います。そこに、子供自らが変わろうとする、小さな成長の兆しを読み取ることができるのです。(国立音楽大教授 林浩子)

027-1.jpg

福音館書店の『いやいやえん』(中川李枝子作、大村百合子絵)



, コラム


この記事をシェアする

LATEST POSTS