自治体が市民の協力を得て行っている「ブックスタート」という活動をご存じでしょうか。地域で行われる定期健診などの機会に、すべての赤ちゃんと保護者に絵本を贈ります。親子で絵本を開く楽しさを「体験」してもらい、単に読むのではなく、ゆっくりと心をふれあわせる時間にしてもらう試みです。
この活動は1992年に英国で始まりました。教師だったウェンディ・クーリングさんが、絵本を楽しんだ経験が一度もない男の子と出会ったことをきっかけに発案したといいます。
日本では平成13(2001)年に始まりました。世界で2番目の実施国です。自治体のブックスタート事業を支援しているNPO法人「ブックスタート」(東京都新宿区)によると、これまでに全国の1023の市区町村(2月28日時点)で行われているそうです。
以前、ブックスタートをきっかけに、赤ちゃんと一緒に絵本を楽しむようになったというお母さんたちから話を聞く機会がありました。Mさんは、寝返りもまだ打てない小さな娘に絵本が理解できるのか疑問だったといいます。しかし、娘が絵本を見たとき、目を大きく見開いて手足をばたつかせ体全体で反応したのだそうです。「小さな赤ちゃんが絵を見て、何かを感じ取っていることに驚きました」と話していました。
さらに月齢が進むと、「絵本の中の言葉に声をあげて笑うので、うれしくてお気に入りの言葉を何度も語りかけました。そのうち、娘が言葉をまねし始め、家族の皆で笑い合い、毎日大変だけど、娘の日々の成長とかわいさを感じます」と話しました。
Mさんは子供を丁寧に見つめ、新たな発見をし、その成長や子育ての喜びを味わっています。絵本が親子のふれあいや、豊かな関わりを生むきっかけになっていることが分かります。
絵本を通じて結ばれた関わりは親子関係だけにとどまりません。
Kさんは、ボランティアでブックスタートを手伝っていたAさんと近所のスーパーで、ときどき顔を合わせるようになりました。Aさんは3人の子育てを経験した人で、Kさんの子供の様子を見て、相談に乗ってくれたり、成長を喜んだりしてくれたといいます。地域の中でKさんの子育てを見守り、支える「親戚のおばさん」のような存在になったそうです。
このように絵本を介した関わりや出会いは、子育て支援にとどまらず、地域づくりなどさまざまな可能性を秘めています。(国立音楽大教授 林浩子)