家族連れやカップル向けスポットと思われがちな水族館。大人1人で、ふらっと出かけたっていいのです。1人だからこそ、じっくりゆっくり味わえる魅力もたくさん。暑い夏に涼しい空間でリラックスしたくなったら、ぜひ行き先の選択肢に「水族館」を。
気楽に足を運べる
都心の癒しの水族館
照りつける太陽、鮮やかな青空、響くセミの鳴き声─夏は、都会にいても自然の躍動感を感じる。ただ、暑さはもちろん、そんな活気あふれる環境も長くつづけば、どこかしんどくなってくる。ちょっと現実から離れて、体も心も休めに行きたい。
2012年、東京スカイツリーとともに開業した〈すみだ水族館〉は、“公園のような水族館”として近隣の人びとから愛されている。〈東京ソラマチ®〉内に2フロアと規模は小さいが、“ひとときの特別感と癒やし”を気軽に味わうのには、うってつけの水族館だ。
入口の薄暗い階段を上ると見えてくるのは、鮮やかな緑の水草があふれる幅7mの巨大水槽。「自然水景」エリアでは、自然の生態系を再現し、命の循環が実感できるアクアリウムを展示している。水草や小さな魚が輝き、神秘的な美しさで、さっそく別世界への訪れを感じさせてくれる。数分前まで観光客でにぎわう施設にいたのが、嘘のようだ。
そして、足を進めると迎えてくれるのは、いくつものクラゲ水槽。14種類のクラゲは形も大きさも、さまざまだ。どのクラゲも水中をゆったり漂うように泳ぐ姿は愛くるしくて、心がほぐされていく。自分好みのクラゲを探すのも楽しいが、約500匹のミズクラゲが浮遊する大きな水槽「ビッグシャーレ」はひときわ幻想的で、とくに惹きつけられる。上から見学できるので、“クラゲの海”に立ったような不思議な感覚になってくる。

クラゲの繁殖・育成を行う「ラボ」にはスタッフが常駐。不思議なクラゲの生態も教えてくれる。生まれたての幼生の小ささに驚くはず。

「いのちのゆりかご」とも呼ばれる水草が茂るアクアリウム。静謐で厳かな美しさに目を奪われる。

色鮮やかなサンゴ礁とカラフルな魚たちが泳ぐサンゴ礁エリアの水槽は、それぞれ再現した環境が違うため、多様な生き物が観察できるようになっている。
推せるペンギンたち
その先では、サンゴ礁に暮らすハマクマノミやキイロハギの水槽や、チンアナゴやニシキアナゴが約200匹集まった水槽が、心をなごませてくれる。ゆらゆらと揺れたり、砂の中に突然引っ込んだり、とぼけたような顔でマイペースに動くチンアナゴを眺めていると、まさに時間が溶けていく。いきなり怒ったような顔になってケンカをしている姿は見逃せない。時間が許せば、全身をさらして泳ぐ珍しい姿も見てみたいところ。
約5000枚の鏡とミラーボールのライトアップで煌めく「万華鏡トンネル」を通って下の階へ。そこでまず目に入るのが、巨大な「ペンギンプール」だ。ペンギンたちが泳ぐ姿はもちろん、上部はオープンなので陸上でくつろぐ姿をつぶさに見られる。
ペンギンのかわいさは、そのフォルムだけはない。すみだ水族館では、「すみだペンギン相関図2026」や「推しペン診断」を公開し、58匹のそれぞれの個性や、ほかのペンギンとの関係性を網羅しているのが特徴。自分の“推し”が見つけやすいうえに、性格や背景がわかることで、その魅力が何倍にも増え、多種多様な“かわいい”が堪能できる。海の生き物たちにほぐされてきた心に推しという栄養が与えられ、疲れも忘れているはずだ。
公園のようなのどかさ
ほかにもオットセイやウミガメ、江戸時代に流行っていた金魚など、約260種類、約7000匹の生き物たちを展示。30分もあれば回れる館内だが、じっくり見れば、何時間でも過ごすことができる。また、エサやり中にスタッフが生き物の説明をしてくれたり、「ラボ」ではクラゲの誕生から成長も観察できたりと、知る楽しさも。
そして、なにより意外だったのは、その居心地のよさだ。ペンギンプール横のデスクでパソコンを開いて仕事をする人や、約45種450点の魚たちが泳ぐ巨大な「小笠原大水槽」の前のベンチでたわいない話をするカップル、小さな声ではしゃぐ子どもたち─。なにも生き物を見ることだけが、この空間でするべきことではない。周りを見渡してみると、そこにいる人たちは思い思いに時間を過ごしている。それこそ公園のように自由な場所なんだとわかる。
水族館は家族のレジャーやカップルのデートなど、楽しめるスポットの定番だ。しかしそれと同時に、日常と非日常の狭間にあって、一人で立ち寄れるリラックス空間でもあるのだ。

人気のマゼランペンギン。58匹すべてにバンドが付けられ、識別しやすい。また今年は4匹の赤ちゃんも生まれ、SNSで公開されている。

大型のサメ・シロワニを筆頭に小笠原諸島海域に生きる生物を集めた「小笠原大水槽」。魚たちだけでなく、岩組も再現されている。

クラゲやペンギンモチーフのカクテルや軽食は、仕事帰りの息抜きにもぴったり。

水族館から出て空を見上げると、目の前に東京スカイツリーが。周辺を散策して帰るのもおすすめ。
すみだ水族館
〈東京スカイツリータウン〉内にある都市型水族館。完全屋内施設なので、天候を気にせず一年中快適に楽しめる。年間パスポート(大人6000円)を利用して、仕事終わりなどに繰り返し立ち寄るリピーターも多いそう。
住|東京都墨田区押上一丁目1番2号 東京スカイツリータウン・ソラマチ5F・6F
電|03-5619-1821(11:00~18:00)
営|10:00~20:00(土日祝9:00~21:00)※日によって異なるため要確認
料|2700円
休|年中無休
https://www.sumida-aquarium.com/
水族館ライター・伊藤拓也さん流
水族館を楽しむポイント5
1. 子どもの目線になってみる
大人になると、水槽の景色をすぐ見慣れてしまうことも。そこで、子どもの目線で水槽を眺めてみるのもおすすめ。たとえば、水槽の前でしゃがみ、低い位置から見上げてみる。水中に入り込んだように、視界いっぱいに水槽の景色が広がる。幼いころ、トンネル水槽で思わず「すごい」と見上げたときの感動。
2. 閉館間際に訪れてみる
ゆっくりと水族館を楽しみたいときは、訪れる時間帯を少し工夫してみよう。おすすめは、閉館の1~2時間ほど前。昼間のにぎわいが落ち着き、館内に静かな空気が流れはじめる。水槽の前で立ち止まって、生き物の動きや水の揺らぎをじっくり眺めるのもいい。都市型の水族館なら、仕事帰りの夕方にも立ち寄れる。
3. 推しの生き物を見つけてみる
水族館の生き物は、よく見ると同じ種類でも性格や行動に違いがある。すみだ水族館のペンギン相関図のように、個体ごとの関係性を知ると「推しの一匹」が見つかるかも。また、特定の水族館でしか出会えない珍しい生き物も。自分だけの推しが見つかると、水槽の前で過ごす時間がぐっと楽しくなる。
4. 展示の背景を想像してみる
生き物だけでなく「展示方法」に注目するのもおすすめ。水槽の形や見せ方には、その地域の環境や生き物を伝えるメッセージが込められている。たとえば、新江ノ島水族館でシラスを展示している理由や、相模湾大水槽を複数フロアから眺められる構造の意味など。知識が増えると水槽の裏側が見えてくる。
5. カフェやショップも楽しむ
水族館で心と体をゆるめる方法は、生き物を見ることだけではない。館内のカフェでひと息つく時間も、大人ならではの楽しみ方だ。オリジナルカクテルなど、お酒メニューが充実した水族館も。また、ショップには大人が使いやすいグッズもある。水族館の思い出を日常に持ち帰れば、自宅や職場にも特別な癒しが。
伊藤拓也 (いとう・たくや)
フリー編集者・ライター。愛知県を拠点に、全国の水族館をプライベートや取材で訪問し、水族館の魅力を発信するnoteやサイト「ぎょぎょさんぽ」を運営。好きな生き物は古代魚の一種ポリプテルス・エンドリケリー。