家族を描いた映画は山のようにある。当たり前だが、映画のなかの家族はみな本来他人同士だ。演じる俳優たちの顔は似ていないし、声も話し方も異なる。だが「これが家族だ」と紹介されれば、私たちは信じるしかない。実のところ、それは映画だけの話ではないかもしれない。
『たかが世界の終わり』は、主人公ルイが12年ぶりに実家へ帰郷する場面から幕を開ける。前作『Mommy/マミー』で母と息子の愛憎関係を描いたドランの最新作は、これまた息切れするほど濃密な家族ドラマだ。登場人物の誰もが激しく感情的で、カラフルな映像と情緒的な音楽がそれをさらに色濃く彩る。
ド派手な化粧と服装ではしゃぐ母親。人気作家の兄に憧れる妹。粗野で乱暴な言葉ばかりぶつける兄。みなどこか浮き足立ち、痛々しいほど芝居じみている(兄の妻だけは少し異なるが)。そのなかでルイ自身はほとんど言葉を発しない。だからこそ彼が口を開くとき、人々はみな固唾を飲んで見守ることになる。彼の一言で長い不在と突然の帰郷の答えが明かされるかのように。彼らはルイの答えを心待ちにする一方、その瞬間を恐れているようにも見える。
実際には、彼ら一家には最初から最後まで何も起きてはいない。ただ久々に再会し、食事や会話を楽しむだけ。激しい喧嘩もするが、基本的にはなんてことない一日の出来事だ。それなのに、その様子はどうしてこんなに見る者を緊張させ、心を動かすのだろう。何か決定的なことが起ころうとするその一瞬を見逃さないよう、誰もが目を凝らし、耳をすまさずにいられない。
帰郷した息子と家族の物語といえば、数年前に公開された映画『クリスマス・ストーリー』を思い出す。追放された放蕩息子が帰郷し、家族に混乱と笑いをもたらすなかで、カトリーヌ・ドヌーヴ演じる貫禄ある母親だけが、不敵な笑みで佇(たたず)んでいるのが印象的だった。
すべてを「愛」で包もうとする母親の姿は、『たかが世界の終わり』でも同じだ。見た目も個性も違う、ときには言葉さえ通じない人々をつなぎとめるのは、「これが家族だ」という言葉だけだ。それは究極の愛のようでもあり、恐ろしい呪いのようでもある。だから私たちもまた、ぞっとしながらも、映画のなかの家族の姿を追い続けてしまうのだろう。

This Month Movie『たかが世界の終わり』
人気作家のルイは、疎遠にしていた家族のもとへ12年ぶりに帰郷する。それは、自分がもうすぐ死ぬことを家族に伝えるためだった。彼の帰りを涙ながらに喜ぶ母と妹とは対照的に、素っ気ない態度をとる兄。張り詰めた空気のなか、兄の妻だけが、家族の様子を静かに見守っていた。今もっとも注目される27歳の天才若手監督が描く、愛しあい傷つけあう家族の物語。カンヌ映画祭グランプリ。2月11日(土)より新宿武蔵野館ほかにて公開。
監督:グザヴィエ・ドラン
出演:ギャスパー・ウリエル、マリオン・コティヤール、レア・セドゥ
http://gaga.ne.jp/sekainoowari-xdolan/
旧作もcheck!

『クリスマス・ストーリー』
クリスマスの夜、ヴュイヤール家に問題児の次男アンリが帰ってきた。いつもトラブルばかり起こす彼は、かつて実の姉から絶縁を申し渡されていた。だが母の病気を治すにはアンリの骨髄が必要で…。フランス人監督デプレシャンが描く家族映画。
監督:アルノー・デプレシャン
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ、マチュー・アマルリック
今月のはしごムービー
『エリザのために』

娘の大学入学のため奔走する父親の姿を通して、正義とは、家族愛とは何かを問う。
ルーマニアの監督による問題作新宿シネマカリテほかにて公開中。
監督:クリスティアン・ムンジウ
出演:アドリアン・ティティエニ、マリア・ドラグシ
http://www.finefilms.co.jp/eliza/
『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』

妻を突然の事故で亡くした男は、泣くこともできないまま、ある日ひとりの女性と息子と出会う。
感情を失った男の再生の物語2月18日(土)より新宿シネマカリテほかにて公開。
監督:ジャン=マルク・ヴァレ
出演:ジェイク・ギレンホール、ナオミ・ワッツ
『バンコクナイツ』

タイ、バンコクの売春街で働く女たちと日本人の男たちのロードムービー。きわどいテーマだが主人公の気高さに妙に魅かれる
2月25日(土)よりテアトル新宿ほかにて公開。
監督:富田克也
出演:スベンジャ・ポンコン、スナン・プーウィセット