《映画でぶらぶら》終わってしまった過去から生み出された、現在の私たちのための音楽


 映画は音楽とともにある。この春公開される2本の映画『タレンタイム〜優しい歌』と『PARKSパークス』は、どちらも極上の音楽に溢れた作品だ。『タレンタイム』は、マレーシアの高校生たちが音楽コンクールの出場を目指す青春ドラマ。少年少女が奏でる音楽はポップで楽しいが、彼らの間に立ちはだかる民族や宗教の壁が、それをどこか切なく響かせる。

 吉祥寺の井の頭公園を舞台にした『PARKS』は、オープンリールテープに残された50 年前の曲の断片から、その続きをつくろうとする3人の若者の物語。仲間を集め、街中の音を拾い、続きのメロディーと歌詞を考える。音楽が生まれる瞬間に立ち会う高揚感。それだけでこの映画を大好きになる。

 アコースティックギターと素朴な歌声から成るもとの曲はいかにも60年代風だが、アレンジによって誕生したのはまったくの別もの。それはそれでたしかに素晴らしいが、ここでひとつの疑問が投げかけられる。果たしてこれをハルの父たちが残した曲の続きといえるのか?その瞬間、映画はしばし音を失う。

 何も変えなければよかったのか。そもそも続きをつくる意味はあるのか。そう問いかけても、答えは見つからない。わからないまま主人公は逡巡し、過去を振り返りながら今の自分を見つめ直す。それは同時に未来を見つめることでもあり、物語は、過去から現在、未来へと、時空を超えて広がり出す。

 かつてあったものが消え去ってしまうのは寂しい。でも街はいつだって変化を続けていく。映画の舞台、吉祥寺も変化が激しい街だ。この映画を企画したのは、2014年に閉館した映画館、吉祥寺バウスシアターのオーナー。街に愛された映画館が姿を消し、代わりに1本の映画が生まれた。重要なのは、終焉から新しい何かが始まるということだ。過去だろうと、未来だろうと、人は常に„現在“と向き合って生きる。現在のなかで、新しいものをつくり続けるしかない。

 『タレンタイム』でも『PARKS』でも、音楽は何度もくりかえし演奏され、そのたびに少しずつかたちを変える。途中で終わった曲もあれば、大事な場面で歌われなかった曲もある。だが映画を見終わったあと、聞きたかったのはたしかにこの曲だったと誰もが思うはずだ。そう信じさせてくれるもの、それこそが映画の力、音楽の力だ。

This Month Movie『PARKS パークス』

井の頭公園わきのアパートで暮らす大学生の純(橋本愛)の前に突然現れた高校生のハル(永野芽郁)。ハルは、この部屋に住んでいた父の昔の恋人を探していた。なぜかハルに協力することになった純は、父の元恋人の孫トキオ(染谷将太)と出会う。恋人の遺品から1本のオープンリールテープを発見した3人は、ハルの父たちが録音した曲を完成させようと決意する。井の頭公園100周年を記念した映画。

4月22日(土)よりテアトル新宿、4月29日(土)より吉祥寺オデヲンほか全国順次公開。

監督:瀬田なつき 
出演:橋本愛、永野芽郁、染谷将太

http://www.parks100.jp/

旧作もcheck!

『バンドワゴン』

© 1953 Turner Entertainment Co. All rights reserved.

 極上の音楽とダンスを楽しむなら、名作ミュージカルを。落ち目のスターがブロードウェイでの新舞台に挑む。古きよき時代を代表するアステアが、若者たちと斬新な演目にチャレンジする。そのギャップがまた楽しい。

監督:ビンセント・ミネリ
出演:フレッド・アステア、シド・チャリシー

ブルーレイ発売中 2381円
ワーナー・ブラザースホームエンターテイメント


今月のはしごムービー

『タレンタイム〜優しい歌』

© Primeworks Studios Sdn Bhd

マレーシアの女性監督ヤスミン・アフマドの遺作。少年少女のみずみずしい歌声と切ない恋物語に、誰もがきっと魅了される

シアター・イメージフォーラムほかにて公開中。
監督:ヤスミン・アフマド
出演:パメラ・チョン

http://www.moviola.jp/talentime/


『午後8時の訪問者』

© LES FILMS DU FLEUVE - ARCHIPEL 35 - SAVAGE FILM – FRANCE 2 CINÉMA - VOO et Be tv - RTBF (Télévision belge)
ある夜、女医ジェニーが無視した診療所のドアベルの音。翌日、訪問者が身元不明の遺体で見つかり、彼女は真実を探し始める

ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて公開中。
監督:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ
出演:アデル・エネル

http://www.bitters.co.jp/pm8/


『メットガラ ドレスをまとった美術館』

©2016 MB Productions, LLC

“ファッション界のアカデミー賞”メットガラの舞台裏を映し出したドキュメンタリー。映画監督ウォン・カーウァイも登場する

4月15日(土)よりBunkamuraル・シネマほかにて公開。
監督:アンドリュー・ロッシ
出演:アナ・ウィンター


つきなが りえ

編集者・ライター。〈映画酒場編集室〉名義で書籍、雑誌、映画パンフレットの編集・執筆を手がける。今月末発売の『映画横丁』4号の表紙は『PARKS』主演の橋本愛さんです





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