Text=TAKUMI OKAZAKI Photography=YUYA SHIOKAWA

東京メトロ[南北線]第4回 白金台[Tokyo Pocket 〜マイ・サードプレイスを探して〜]


 喧騒の街の隙間には、小さな「ポケット」のような空間がある。昼休みのひととき、あるいは週末の静かな時間に気持ちをリセットできる、東京メトロ沿線のさまざまな穴場スポットへ。


「高級住宅街」の本当の顔。

 白金台と聞けば、「シロガネーゼ」という言葉が思い浮かぶ。きらびやかで洗練された、高級住宅街のイメージ。駅を降りるとき、どこか緊張感が走るのも無理はない。ところが歩きはじめて間もなく、その印象は揺らぎはじめる。目に入るのは、華やかさよりも街路樹の影や落ち着いた建物の姿。この街の本質は、世間のイメージとは別のところにあるようだ。

 目黒通りを進むと、〈港区立郷土歴史館〉が現れる。1938年竣工の旧公衆衛生院。スクラッチタイルに覆われたゴシック調の外観が静かな重みをたたえている。館内に入ると、吹き抜けの中央ホールが広がり、外の喧騒が遠のいていく。平日の昼間だからか人は少なく、その静けさがかえって心地よい。「コミュニケーションルーム」では、縄文土器やミンククジラの骨格標本に触ることができる。冷たく滑らかな骨に触れると、かつて海を泳いでいた巨大な生命の気配が指先に立ち上がる。

 続いて〈東京都庭園美術館〉の庭園へ。芝庭、日本庭園、西洋庭園という三つの空間が、それぞれ異なる美意識をたたえている。芝庭は開放的で、広々とした芝生を風が走る。点在する現代彫刻が、緑の中で静かに存在を主張している。

 旧朝香宮邸のアール・デコ建築を横目に奥へ進むと、空気がふっと変わる。日本庭園だ。池を鯉がゆっくりとめぐり、光が水面に柔らかく揺れている。西洋庭園に入ると、レジャーシートを広げる親子や、ベンチで読書をする人の姿がぽつりぽつり。木々の向こうから高速道路の音がわずかに届き、ようやく都会の只中にいることを思い出す。
 

自然とアートに包まれる時間。

 庭園美術館の向かいにある〈Jubilee Coffee and Roaster〉へ。扉を開けると、焙煎の香ばしい香りが漂う。オーナーの関野さんは約10年間の会社勤めのあいだにコーヒー愛を募らせ、ついに退職。2年間のセミナーで技術を磨き、念願の店を開いたという。豆は焙煎度合いで細かく分類され、客の好みに合わせた一杯を提案してくれる。ケニアの深煎りを頼むと、最初は苦味が際立ち、冷めるにつれて甘みが増す。温度で表情を変える一杯を前に、思わず時間を忘れる。

 帰り道、プラチナ通りを歩く。白金台で過ごす一日は、これまで抱いていた「シロガネーゼ」のイメージとはまるで違っていた。派手な商業施設もランドマークもない。自然教育園には豊かな植物や昆虫の営みが息づき、イチョウ並木に沿って静かに佇むカフェやショップが点在する。他にも松岡清次郎が1975年に開館した〈松岡美術館〉のように、控えめながら個性の光るアート施設も街の随所に潜んでいる。

 「高級住宅街」という言葉だけでは捉えきれない、意外なほど自然とアートに恵まれた街。肩の力がふっと抜ける場所。春になったらまた訪れよう。季節が変われば植物も移ろい、展示される作品も変わる。その変化を受け止めるたびに、この街への理解も少しずつ深まっていくはずだ。

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東京都庭園美術館に佇む茶室「光華」。
不定期で茶会も開催され、都会にいながら静寂を味わえる。

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どこを歩いても緑が目に入る、自然豊かな白金台。
とくに平日は人通りも少なく、ゆったりと過ごせる。


1. 
港区立郷土歴史館

住:東京都港区白金台4-6-2 ゆかしの杜内
開:9:00~17:00
休:毎月第3木曜日、年末年始
@minatorekishi

港区の自然・歴史・文化が学べる博物館。貝塚の15mもの貝層断面などが見どころの常設展に加えて、期間限定で特別展・企画展を開催する。1月10日〜3月8日は港区の歴史を物語るさまざまな資料を紹介する「未来に伝えよう!みなと遺産」が開催中。

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2.
東京都庭園美術館

住:東京都港区白金台5-21-9
開:10:00~18:00
休:月曜、年末年始
@teienartmuseum

旧朝香宮邸を活用した美術館で、アール・デコ様式の建築と四季の庭園が特徴。庭園には飲食物の持ち込みも可能で、ベンチでお弁当を食べるサラリーマンの姿も。※1月19日~2カ月超にわたり本館・新館は閉鎖され、庭園のみの公開となります。

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3.
Jubilee Coffee and Roaster

住:東京都港区白金台3-18-10
営:10:00~18:00
休:月・火曜
@jubileecoffeeandroaster

世界中から厳選した生豆を毎日店内で丁寧に焙煎するカフェ。広々とした大きな窓が印象的で、目の前に広がる東京都庭園美術館の豊かな緑を眺めながら過ごせる。自家焙煎の香り高いコーヒーをゆっくり楽しめ、散策の途中でひと息つくのにちょうどいい。

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