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《映画でぶらぶら》それは愛なのか、侵略なのか。男と女の、愛をめぐるスリリングな攻防戦


 1950年代のロンドンが舞台の『ファントム・スレッド』。見終わったあと、いろいろな映画、特に古典と呼ばれる映画が脳裏に浮かんだ。美しい衣服を身につけ、微笑みながら見つめあう男女の姿が、次から次へと記憶によみがえる。

 本作と同じく、イギリスの豪邸を舞台にした夫婦のサスペンスドラマなら、ヒッチコックの『レベッカ』(40年)、キューカーの『ガス燈』(44年)がまず思い浮かぶ。また、若く情熱に満ちた妻と年上の夫の複雑な愛を描いたデヴィッド・リーンの『情熱の友』(48年)は、本作のアンダーソン監督も大好きな映画だという。

 過去の作品に思いを馳せてしまうのは、『ファントム・スレッド』が優雅な時代劇だからだ。物語の始まりは、まるでロマンス小説のよう。高級服をつくる仕立屋のレイノルズに見初められたウェイトレスのアルマは、彼が姉とふたりで住むロンドンの邸宅にやってくる。女として愛され、ブランドのミューズとして彼の唯一無二の存在となるアルマ。美しいドレスをまとい、輝きを増していく彼女の姿は、夢のような高揚感をもたらす。

 その様子を、姉のシリルは冷ややかに見つめる。なぜなら、アルマの前にも、同じような女たちがいたからだ。レイノルズは、女たちの肉体にインスピレーションを受け、新しい服をつくりだす。その対価として彼女たちに惜しみなくものを与えるが、自分の人生には踏み入れさせない。相手が不満をもらせば、また別の女を見つけにいく。アルマもまた、このサイクルの一部分にすぎないはずだった。

 静かな朝食から始まるレイノルズの毎日は、あたかも様々な規則で武装された王国のよう。だがアルマは、この閉じられた王国へ大胆に侵入する。大きな音で彼を驚かせ、その視線を自分に向けさせる。愛を知らない孤独な男の心の扉をこじ開け、愛を教える女。一見ロマンチックだが、それは恐るべき侵略行為でもある。支配権をめぐる戦いは、映画を予想もできない方向へと導いていく。

 スリリングな攻防戦は、ふたりの出会いの場面へと、見る者の意識を引き戻す。笑みを浮かべて見つめ合う男と女。「にらめっこをするつもりなら、あなたは私に勝てない」。不敵なアルマの呟きが、画面の向こうから、ふいに聞こえた気がした。

『ファントム・スレッド』に登場する大晦日パーティーは、『情熱の友』の一場面とよく似ていて驚かされる

This Month Movie『ファントム・スレッド』 

 1950年代のロンドン。オートクチュールの婦人服を手がける人気仕立屋のレイノルズは、ある日、レストランで働くアルマと運命的な出会いを果たす。彼女の存在に刺激され、次々に新しいドレスを発表するレイノルズ。一方で、自分の規律を重んじる彼と、愛を求めるアルマの間で、徐々に均衡が崩れていく。『マグノリア』の監督による衝撃的なゴシック・ロマンス。5月26日(土)よりシネスイッチ銀座ほかにて公開。

監督:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:ダニエル・デイ=ルイス、ヴィッキー・クリープス

旧作もcheck!

『レベッカ』

写真協力:公益財団法人 川喜多記念映画文化財団

 旅行で出会った英国貴族マキシムと結婚したマリアン。だが夫の住む館へ越してきた彼女は、不気味な使用人の女性と、亡くなった前妻レベッカの影に怯え、徐々に精神を病んでいく。

監督:アルフレッド・ヒッチコック 
出演:ローレンス・オリヴィエ、ジョーン・フォンテイン

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