映画が始まったとたん、その激しさに面喰らう。女が、大声を上げながら、アパートのドアを激しく叩いている。やがてドアに自分の額を叩きつけた彼女は、床にばたりと倒れてしまう。なんとも強烈なオープニングだ。
その後、女は病院に連れて行かれる。医師との会話から、徐々に彼女の状況が判明する。名前はポーラ、年齢は31歳。「写真家の恋人と10年つきあった。メキシコで一緒に住んでいたのに、パリへ戻ったとたん、突然家を追い出された。いったい私はどうしたらいいのか」と、興奮した彼女は医師相手にぶちまける。
恋人の飼い猫を盗み出し、粗野な言動で人々を怒らせるポーラ。野性味あふれる彼女の存在は、静かなパリの街で、異物のように浮いて見える。だが彼女の冒険は、このどん詰まりの状況から始まる。住み込みのベビーシッターの仕事を決め、ショッピングモールの下着屋でバイトをする。都会で、女が生きていくのはいつだって大変だ。必要なのは恋人や保護者ではない。お金と自分だけの部屋だ。
彼女はたびたび嘘をつく。年齢や経歴、ときには名前さえ詐称する。見た目だってころころ変わる。病院で盗んだコートを着こみ、トイレットペーパーの芯で髪を結いあげパーティーに参加する。バイトが決まれば、チープな制服と化粧で、女子学生に擬態する。その見事な変身ぶりは、観客を驚かせ、おおいに笑わせてくれる。
無軌道に見えるポーラの行動。でもそれは、自分を取り戻すために必要な行為かもしれない。大学を退学し、著名な芸術家の若き恋人として裕福な暮らしをしてきたと思われる彼女は、一人になり、失われた10年をやり直そうとしているのだ。小さな部屋に住み、その場しのぎの仕事でお金を稼ぐ。ジャンクフードを食べ、安っぽい洋服や化粧で自分を着飾り、夜はセックスやダンスを楽しむ。20代でやっていたかもしれないこと、実際にはできなかったことを、ポーラは、次々に実現してみせる。
そうして、いつの間にか、パリの風景のなかに馴染んでいる彼女に気づく。ラストシーンの彼女は、冒頭とは真逆で、とても静かで穏やかだ。その変化を、「彼女も大人になった」とは言いたくない。いくつもの冒険を経て、女は、新たな一歩を踏みだしたのだ。

This Month Movie『若い女』
10年間つきあった恋人に突然別れを告げられ、一文無しでパリの街を彷徨うはめになったポーラ。恋人の飼い猫を抱え、友人の家、安ホテル、不仲の母親の家を渡り歩くが、どこにも居場所はない。なんとか住み込みのベビーシッターの仕事を探し、別のバイトも始めるが、パリ生活は困難の連続で…。フランスの若手女性監督の長編第1作。これまでにない個性豊かなパリ映画! 8月25日(土)より渋谷ユーロスペースほかにて公開。
監督:レオノール・セライユ
出演:レティシア・ドッシュ、グレゴワール・モンサンジョン
旧作もcheck!
『5時から7時までのクレオ』


© agnes varda et enfants 1994
パリの街を彷徨う女、といえば迷わずこの映画をおすすめしたい。2時間の見事な彷徨。1961年製作の傑作パリ映画。
監督:アニエス・ヴァルダ
出演:コリンヌ・マルシャン
Blu-ray:4800円+税
DVD:3800円+税
発売元:株式会社アイ・ヴィー・シー