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《映画でぶらぶら》ハリウッドに渦巻く夢と欲望を描いた、摩訶不思議なフィルムノワール


 小説や映画に登場する、孤独な探偵たち。魔法のような推理力よりも、愚直なまでに謎を追うタフさが、彼らの魅力。探偵たちを突き動かすのはいつも女だ。忘れられない女の影を求めて、彼らは暗黒街へと足を踏み出す。

 そろそろ可愛い男の子を探す女探偵も見てみたい、とは思いつつ、『アンダー・ザ・シルバーレイク』もまた、愛した女を探す孤独な探偵の物語だ。主人公は、アパートの家賃を滞納し、毎日を無為に過ごす無職の青年サム。彼が住むのは、ハリウッド東北部のシルバーレイク。貯水池の名前であり、住宅地でもあるシルバーレイクには、かつてサイレント映画の撮影所があり、今ではスターを目指す若者や芸術家たちが大勢住んでいる。サムも、ハリウッドでの夢を追ってやってきた若者の一人だろう。

 ある日、サムは、プールで泳ぐ隣人サラと出会い、デートの約束をする。ところが翌日、サラは突然姿を消す。彼女の失踪に疑問を感じたサムは、独自に調査を始める。孤独な探偵の誕生だ。

 どんな警告も、脅迫も、探偵サムを止めることはできない。怪しげなパーティへ潜り込み、次から次に人を訪ね歩く。手がかりらしき要素は続々と発見される。壁に書かれた奇妙な記号。変死体となって見つかった富豪の男。周囲で頻発する犬が殺される事件。ハリウッドの周辺に群がる少女たち。ポップミュージックの歌詞やテレビゲームに隠された暗号。どれも不気味で奇妙なものばかり。

 だが、突き止めようとすればするほど、謎は深まる。迷路の出口が見つかったかと思えば、また別の入り口が発見される。あちこちに散りばめられた、過去の映画や音楽へのオマージュが、現実と妄想の境界線を曖昧にする。サムの執念はほとんど狂気に近い。もはや、めまいとともに、闇の奥へ突き進むしか道はない。

 ハリウッドに渦巻く、人々の夢と欲望。それを飲み込み続けたシルバーレイクの闇は、あまりに深い。果たして、サムはどこへ行き着くのか。そもそも彼は何を追い求めていたのだろう。愛した女の姿か。見失った自分自身か。

 一度見ただけでは全貌を掴みきれない、摩訶不思議なフィルムノワール。けれど、映画の印象は、妙にすがすがしい。まるで、最高の青春映画を見終えた後のように。

metro190-movie-01.jpgプールで出会ったサラの魅力はもちろん、ユーモアと寂しさを同居させた、サム役のアンドリュー・ガーフィールドの演技が素晴らしい

This Month Movie『アンダー・ザ・シルバーレイク』 

 LAのシルバーレイクに住む青年サムは、同じアパートに越してきた謎の美女サラと出会い、デートの約束をする。だがその翌日、サラは突然姿を消す。壁に残された奇妙な記号に陰謀の影を感じ取ったサムは、彼女の行方を追い始める。やがてサムは、シルバーレイクの下に眠る、闇の組織の存在に行き着くが…。『イット・フォローズ』の監督が贈るハリウッド奇譚。10月13日(土)より新宿バルト9ほかにて公開。

監督:デヴィッド・ロバート・ミッチェル
出演:アンドリュー・ガーフィールド、ライリー・キーオ

旧作もcheck!

『ロング・グッドバイ〈CCジンジャー・エディション〉』

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 謎を追い求めさまよい歩く孤独な探偵といえばフィリップ・マーロウ。73年製作の傑作フィルムノワール 

監督:ロバート・アルトマン 
出演:エリオット・グールド
Blu-ray( 2 枚組/本編BD+特典DVD):5800円
発売元:マクザム
10月26日(金)発売

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