ストリップクラブの屋上で、寒空の下、ゴージャスな毛皮を羽織ったラモーナ(ジェニファー・ロペス)が煙草をくゆらせている。そこへ遅れてやってきた、新人デスティニー(コンスタンス・ウー)。彼女を目にとめ、ラモーナは「寒いから入りな」と自分の毛皮のコートを開いてみせる。心底嬉しそうな笑みを浮かべながら、デスティニーはその懐にするりと潜り込む。
その瞬間、私はこの映画が大好きになってしまった。恋に落ちた、と呼びたくなるほどの、何か決定的な瞬間だった。そんなシーンと出合える機会はそうそうない。
『ハスラーズ』は、アメリカで実際に起きた、驚くべき事件をもとにつくられた映画。ストリッパーとして働いていた女性たちが共謀し、裕福な金融マンたちから大金をだましとっていたのだ。
事件の背景にあるのは、2008年のリーマン・ショック。大不況の影響で、豪勢に金をばらまいていた男たちがクラブから姿を消し、ストリッパーの生活は苦境に陥る。将来への保証など何も持たない女たち。「老い」への不安も苦しさを助長させる。一体いつまでこんな生活を続けられるのか。不安と恐怖に駆られたデスティニーは、ラモーナの誘いに乗り、危険な計画に乗り出す。
手を染めるのは完全なる犯罪行為。それでも、彼女たちの無邪気さ、ふてぶてしさはまるで十代の少女たちのようだ。街を闊歩し、流行の曲で歌い踊る。仕事の後はお喋りをし、稼いだ金で欲しいものを買いまくる。そのリズミカルさ、快活さに、見ているこちらはしびれるような快感を味わう。
これは復讐でもある。自分たちの体を安く買い叩いた男たちへの、経済危機を起こし市民の生活をぶち壊したウォール街への復讐。同時に、彼女らはぼろぼろになった自分たちの体を解放する。だが綿密だと思われた計画に、ある日ささいな綻びが生じる。そうしてあっというまに破滅が訪れる。最高の瞬間は、いつだって終焉の始まりと同 時にやってくるのだ。
かつては、ロバート・デ・ニーロらが、ギャングたちの栄枯盛衰を巧みに見せてくれた。現代では、女たちがそれを体現する。これは、2000年代の女ギャングたちの物語。女たちによる雄弁で滑稽な犯罪劇。だが、どこか悲しげな美しさに満ちている。

This Month Movie『ハスラーズ』
祖母と二人暮らしのデスティニーは、家計のために働き始めたストリップクラブで、トップダンサーのラモーナと出会う。姉妹のような絆を結んだ二人は、互いに協力しあい、華やかな生活を送っていた。だが2008年、リーマン・ショックによりニューヨークの景気は急激に悪化。困窮した彼女たちは、ウォール街の金融マンたちから金を奪い取るため、ある計画を立てる。
TOHOシネマズ日比谷ほかにて公開中。
監督:ローリーン・スカファリア
出演:コンスタンス・ウー、ジェニファー・ロペス
旧作もcheck!
『グッドフェローズ』
ロバート・デ・ニーロ、レイ・リオッタ、ジョー・ペシらが出演した、ギャング映画の傑作。1990年製作。

監督: マーティン・スコセッシ
ブルーレイ: 2381円
DVD : 1429円
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