村を訪ねては巡回上映を行う4人の年老いた男たち。『ようこそ、革命シネマへ』は、映画館復活を目指し奮闘する彼らの姿を捉えたドキュメンタリー。4人の長年の友情と、映画への深い愛とともに、スーダンという国の歴史の重みを映し出す。
恥ずかしながら、私はこの映画によって初めてスーダンの現状を知った。1989年、クーデターによって軍事政権が誕生すると、文化状況は著しく後退。以前は多くの観客でにぎわっていた映画館は街から姿を消し、国産映画は一本もつくられなくなったという(映画完成後の2019年4月、革命により独裁政権は打倒された)。
主人公は、みな様々な形で製作の自由を奪われた映画作家たち。1960〜70年代に外国で映画を学んだ彼らは、クーデターに伴う苦難を経験後、スーダンで再会。母国の映画事情を憂い、巡回上映を続けながら、廃業した映画館「革命シネマ」を復活させ、若者に映画の魅力を伝えようと決意する。
計画は順調にはいかない。行政手続きは遅々として進まず、資金も集まらない。でも4人に悲壮感はない。無邪気な少年のように、大好きな映画の一場面を再現し、思い出を語り合う。過去に受けた厳しい尋問や亡命について話しながらも、声は穏やかなまま。
途中、大きな挫折に直面した彼らがつぶやく言葉が忘れられない。「さて、これでまた元の生活に戻るわけだ」。そうしていつものように古ぼけた車に機材を積み、巡回上映へ出かけていく。まあしかたないさと言わんばかりの表情に、一瞬驚きを覚える。だがこの諦めに似た静けさもまた、彼らの闘い方なのだとやがて気づく。
4人の苦難に満ちた半生。政府による弾圧の実態。軍事独裁下での生活。それらは画面にはっきりとは映されない。でもその映されないものたちこそが映画の核となる。スクリーンに映されずに終わった映画のように、沈黙や静かな笑みの端々から、長い長い闘いの影がひっそりと浮かび上がる。
そういえば先日、とあるキューバ映画上映会での文化人類学者・田沼幸子さんの発言にハッとさせられた。「革命は結婚と同じ。持続させなければ意味がない」と彼女は言った。不屈の精神を持った老作家たちの革命は、静かに、だが永遠に続くだろう。
This Month Movie『ようこそ、革命シネマへ』
2015年、軍事独裁政権下のスーダン。街の映画館がなくなり、映画産業が壊滅状態になったこの国に再び映画を取り戻そうと、古老の映画人4名が立ち上がる。様々な手段を用い、街に映画館を復活させようと計画するが、その試みは思うようには進まない。映画の復興を目指す老人たちの友情を軸に、激動のスーダン史を描いたドキュメンタリー。
4月4日(土)よりユーロスペースほかにて公開。
監督:スハイブ・ガスメルバリ
出演:イブラヒム・シャダッド、スレイマン・イブラヒム、エルタイブ・マフディ、マナル・アルヒロ
旧作もcheck!
『ミツバチのささやき』
巡回上映の様子を描いた映画といえばこの作品。6歳の少女アナは、村の巡回上映会場で、映画『フランケンシュタイン』に魅了される。
監督:ビクトル・エリセブルーレイ 4800円/DVD3800円
発売元:株式会社アイ・ヴィー・シー