勢いよく走り来る列車。それを止めようと、線路上の車から男が大声を張り上げる。果たして列車の停止は間に合うのか、スリルが高まった瞬間、激しい激突が起こる。
この『地上最大のショウ』のワンシーンを、少年サミーは映画館で固唾を飲んで見つめていた。彼にとって、これが初めての映画体験。スクリーン上で起こるすべてに圧倒された彼は、この日からその幻影に取り憑かれる。それを察した母は、息子に8ミリカメラを手渡し、それほど好きなら自分で撮ってみるよう言い聞かせる。
スピルバーグ監督が、自分の原体験をもとに描く自伝的映画。サミーは、子供のときから映画に夢中だった監督の分身的存在だ。妹たちや友人を使って、サミーは次々に映画をつくりつづける。西部劇、ホラー映画、戦争映画。家族のイベントを撮影し、記録するのも彼の役目。
芸術家肌でいつも陽気な母ミッツィと、優秀な科学者でオタク気質な父バートは、まったく違う個性を持つ夫婦だが、それぞれに息子の熱中ぶりを温かく見守ってくれる。ただし、真の理解者は母ミッツィだ。芸術はときに、抗えないほど巨大な力で、誰かの人生を引きずりこむ。かつて音楽家の道を目指し、結婚を機にその夢を半ば諦めた母はそのことを知っている。一方バートは、息子の才能を認めつつも、映画づくりはあくまで趣味だと考えている。
あんな場面を撮りたい、あの名作の真似をしたい、ここをこうつなげたら絶対に笑えるはず。衝動に駆られながら、サミーは次々に作品を生み出していく。だが映画の外側で、現実が少しずつ崩壊していることに、彼はまだ気づかない。そしてある日、ただ楽しく映画を撮っていた少年は、カメラが現実を映すときに何が起こるのか、その恐ろしさに突如気づかされる。
映画は、映写機の放つ強い光によって人々の目に届けられる。そして光の裏には必ず影がある。映像がもたらすスペクタクルと、カメラが写しとる現実の残酷さ。映画がもたらす光と影、その両方を見つめながら、それでも映画を撮りつづけてきた、いや、撮らずにいられなかった人がいる。必ずしもスピルバーグ自身の体験談ではないと理解しつつも、彼がつくった過去作すべてを見直したくなる。
サミーがつくる8ミリ映画の数々が見られるのも楽しい。
This Month Movie
『フェイブルマンズ』
両親に連れられ初めて映画館を訪れて以来、すっかり映画の虜になった少年サミーは、8ミリカメラで次々と映画をつくり出す。そんな彼を、音楽家の母ミッツィと、科学者の父バートは温かく見守っている。だが父の転勤のため、ニュージャージー、アリゾナ、カリフォルニアと移り住むうち、家族の間に徐々に亀裂が生じ始める。
新宿ピカデリー、TOHOシネマズ日比谷ほかにて公開中。
監督:スティーヴン・スピルバーグ
出演:ミシェル・ウィリアムズ、ポール・ダノ、セス・ローゲン
旧作もcheck!
『SUPER 8/スーパーエイト』
©2011 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.TM, ® & Copyright © 2015 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.
スピルバーグが製作を務めたSF映画。こちらも8ミリカメラでの映画制作に夢中な少年たちの物語。
監督:J・J・エイブラムス
価格:3122円
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン