text: Sayoko Kusaka photo: Toshiyuki Imae edit: Kohei Nishihara(EATer)

どんな壁もいつかは “扉”にできる[フェムトーク]


女性のココロとカラダのケアを考え、よりよい未来につなげる「Fem Care Project」。本誌編集長・日下紗代子が、さまざまな人にお話を聞きながら、女性の健康課題や働き方について考えていきます。


 「MOREDOOR(モアドア)」というWEB媒体をご存知だろうか。株式会社ゼネラルリンクが、心や体、ジェンダーなどといった多様なテーマを、専門家と話し合いながら、漫画作品に落とし込み発信しているメディアで、2022年に誕生した。開始4カ月でSNSでの累計再生数は1000万回超え。1万件以上のコメントが付き、「TikTok Creator Awards Japan 2023」の表彰を受けるなど、Tik Tok、Instagramを中心にいま若い世代から注目が集まっている。私は、先日表参道で開催されたフェムテックのイベントで知ったばかりだったのだが、あっという間に心をつかまれた。どの作品も温度があってあたたかい。そのあたたかさの秘密は「MOREDOOR」の名前の由来にもあった。編集部のみなさんに媒体が生まれたきっかけや、発信を続ける先の未来についてお話をきいた。

選択肢を“扉”に変えて

 「『MOREDOOR』の前身には、『恋愛jp』というWEB媒体がありました。恋愛に特化した情報を10年近く発信してきたのですが、時代の変化とともに『恋愛や結婚がすべてではない』『自分らしくありたい』など読者の価値観も多様化し、媒体に求められるニーズも変わってきました。『恋愛jp』の頃からあった“女性たちが女性自身にかけた呪いを解きたい”という思いを踏襲し、2022年、コンセプトを新たにリニューアルを行いました」

 『知らない、知れないをなくす』。これはMOREDOORのビジョンであり、名前にも由来するところだという。

 「世の中には、素晴らしいサービスや解決策が増えています。しかし、肝心な悩みをもつ当事者とのつながりは少ない。私たちはその両者をつなぐ“架け橋”になりたいと考えました。そんなとき、メンバーの一人が『一つのドアが閉まっている時、もっとたくさんのドアが開いている』といった言葉をみつけて。確かに、心や体、性に関する悩みはひとそれぞれあります。ひとつ壁があったとしても、実はもっと違う選択肢や見方(=扉)があるかもしれない。その『壁』を『扉』に変えるきっかけが作れたら。私たちのコンテンツを通じて、選択肢を知ることや、その先につながるポジティブな未来を“扉”にみたて『MOREDOOR』という名前に決めました」

自分自身と社会を信じるために

 ぜひMOREDOORのアカウントを検索してみてほしい。そこには、生理などの女性特有の健康課題に加え、「うつ病」や「アセクシャル」といった、ジェンダーやメンタルヘルスに関わるテーマもたくさん並んでいる。なかには、ドキッとする言葉もあるかもしれない。作品のテーマ選定について聞くと、包括的性教育(※)の中にある「偏見」が起点だという。

 「たとえば、『うつ病は甘え』『支える側は我慢しなければならない』『婦人科に行くのは恥ずかしい』。これらは、心や体、性にまつわる悩みにおける偏見の数々です。その偏見によって苦しんでいる人がいる。作品を通じて、そのようなネガティブをどうポジティブに変換できるか、一生懸命考えています」

 悩みを抱える当事者だけではなく、その周囲の人にもフォーカスする構成や物語の展開は、大きな特徴だ。こうした悩みが身近な人にもあるかもしれない、ある日突然、自分の身にも訪れるかもしれないと気づく。

 「一番大切にしているのは、この考えが正しい、正しくないといったことを断定しないことです。物語のエンディングは、当事者と支える側が選んだ一つの選択肢にすぎません。すべての決断に、愛や、納得感があれば、どちらもベストの選択だと思うんです」

 コメント欄が活発なのも特徴だ。ものによっては数千件と、作品を通じて議論が起きることが重要だという。『心が軽くなった』『自分だけじゃないとわかった』『この悩みは、実は、周りの人からはポジティブなことだったことに気づいた』など、前向きな発見につながっているコメントを見ると嬉しいです」

 読み手の想像に任せたい気持ちは徹底している。今回のインタビューでも、極力「中の人」の色をなくすことにした。ただ、イチファンとして、編集部のみなさんの強い使命感と、寄り添い力の強さは強調したい。最後にこう話してくれた。

 「私たちの時代の課題を、次の世代には先送りにしたくない。みんな人生のどこかで、何かしらのマイノリティになりうると思うんです。そのとき、諦めるのではなく、自分自身を信じて、社会を信じて、次の扉をあけてほしい。その力になりたいと思っています」

※MOREDOORが向きあう「包括的性教育」
ユネスコが提唱する「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」で示されている、『①関係性、②価値観、権利、文化、セクシュアリティ、③ジェンダーの理解、④暴力と安全確保、⑤健康と幸福のためのスキル、⑥人間のからだと発達、⑦セクシュアリティと性的行動、⑧性と生殖に関する健康』を要素に構成されているジャンル。
出典:「国際セクシュアリティ教育ガイダンス(International technical guidance on sexuality education)」

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『MOREDOOR』の漫画。ゼネラルリンクでは、さまざまな媒体を運営しているが、漫画制作は力をいれている事業のひとつ。コンセプトに共感した専門家やクリエイターとともに、自社の強みをいかし、TikTok、Instagramを中心に、短尺、長尺など、約50作品を公開している。センシティブなテーマなだけに、ひとつひとつ丁寧に、かつ作品の細部にわたり、読み手への配慮がいきわたっている点も魅力だ。

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MOREDOORはこちら!
https://www.tiktok.com/@moredoor_official


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メトロポリターナ編集長
日下紗代子

漫画で考えるココロとカラダ!

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Fem Care Project

「フェムケアプロジェクト」は、産経新聞社が主催する、女性の心と身体の「ケア」を考え、よりよい未来につなげるプロジェクト。女性特有の健康課題や働き方について情報発信をしながら考えていく。





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