《清澄白河》東京ミニシアターダイアリー vol.10


編集部が“いま気になること”を紹介している「気ままにメトロポリターナ」。映画好きの編集部員・関根が、ミニシアターの魅力をお届けする「東京ミニシアターダイアリー」第10回は、墨田区菊川に誕生した「ストレンジャー」をご紹介。見て帰るだけではない、映画愛にあふれたこだわりの空間が広がっていました。

清澄白河/ストレンジャー

長らくご無沙汰していたこちらの連載も、今回で10回目!今回紹介する「ストレンジャー」は、映画を「知る」「観る」「論じる」「語り合う」、映画で「繋がる」という5つの映画体験を提供している、新しいスタイルのミニシアターです。まだ見ぬ作品を知れたり、上質な映画鑑賞ができたりすることはもちろん、誰かと映画について語り合ったり、映画を通して人と人が繋がる体験も大切にしているこちら。その背景には、「ストレンジャー」の代表を務める岡村忠征さんが感じていた、ミニシアターに対するある思いがありました。

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店内に入るとすぐにカフェのカウンターが。奥の席でゆっくりと食事を楽しんだり、ドリンク片手に映画について語り合ったりできる開放的な空間です。
写真提供/Stranger

映画をひとりで見に行くことの多い私は、鑑賞後は誰と話すこともなく、作品の余韻に浸りながら帰ることが当たり前でした。岡村さんは、そんな従来の鑑賞スタイルをアップデートした、新しい映画館をつくりたいと考えていたそうです。「映画館では、スタッフと観客が一定の距離を保ち、丁寧な接客でホスピタリティを発揮することが一般的でした。ですが、いまの映画館に来てくれるお客さんにとっての“居心地のよい映画館”のかたちは、ほかにもあるのではないかと思ったんです。そこで目指したのが、スタッフとお客さんが同じ目線でコミュニケーションをとり、映画を愛する者同士が一体感を持って楽しめるシアターでした」。いい作品に出合えたときに、その映画について語り合える場があったら楽しいし、作品の新たな解釈やほかの人の感想を知ることもできますよね。そんな、映画を通じた新しい交流を楽しめる場所を、「ストレンジャー」は目指しているのです。

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座席のシートは、新潟県の映画館で使われていたものを再利用し、その歴史をつないでいます。柔らかな生地で座面が沈みすぎず、背もたれも倒れすぎないため、鑑賞時の座り心地が抜群!
写真提供/Stranger

49席のコンパクトな上映室ですが、鑑賞設備はとても充実しています。スクリーンは、座席数に対してかなり大きい幅4.2m。音響は、かつて山形県にあったシネコンで使用していた、アメリカの音響メーカー「QSC」の機材を再利用しています。200〜300席用のスピーカーを49席の劇場に設置していることになるため、音の迫力は想像以上。効果音専用のサブウーハー(LFE)により、繊細で迫力のあるサウンドが生まれ、さらに天井や壁に吸音材を貼ることで、音がすぐ耳元で鳴っているような臨場感のある音を実現したそうです。この音響クオリティで映画を見られるのだから、かなり贅沢な鑑賞です…!

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館内に掲示されている、現在の特集上映「J=L・ゴダール 80/90年代セレクション」と、次回の特集上映「B・クローネンバーグ『アンチヴァイラル』限定上映+α」のポスター。
写真提供/Stranger

もちろん、上映する作品選びにも岡村さんのこだわりが。「作家主義的な特集上映であること、日本で上映権が切れていたり、未公開だったりするレアな作品であること、見逃しがちな新作であること、このいずれかを基準に上映作品を決定します。国やジャンルを問わず、心からお客さんに届けたいと思える作品を集めています」。こけらおとし上映は、岡村さんが映画にまつわる仕事を志すきっかけにもなったという、ジャン=リュック・ゴダール監督の6作品。こちらは10月6日(木)で終了となりますが、8日(土)からは、今年3月に公開された『ポゼッサー』で話題となったブランドン・クローネンバーグ監督の特集上映が始まります。その作品はどれも、現在は配信やレンタルはされていないものばかり。「ストレンジャー」が独自に作品を買い付けることで上映が実現しているため、これを逃すと次はいつ見られるかわからない貴重な機会です。私は『ゴダールのマリア』を見に行きましたが、ほかの作品も、上映しているうちにできる限り見に行きたい…。こうして何度も足を運びたくなるのが、ストレンジャーの魅力だと実感しました。

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「自家製スパイシーレモネード」600円
メニューはほかにも、「ストレンジャー」オリジナルのブレンドコーヒーやサンドイッチ、クラフトビールにワインと、充実のラインナップです。

私が鑑賞した日も、上映後にカフェでスタッフとゴダール作品について話すお客さんの姿がありました。「映画に詳しいスタッフが常駐しているので、気軽に会話を楽しんでください。ここが、映画をさらに好きになれる場所になれたらうれしいです」と話してくれた岡村さん。「ストレンジャー」は、まさに映画好きが集う新たな交流の場になろうとしています。菊川駅からすぐの立地ですが、清澄白河駅からも徒歩15分ほどなので、近隣のカフェや美術館めぐりと合わせて、散歩ついでに立ち寄るのもおすすめ。「ストレンジャー」で、新しい映画体験を楽しんでみてください!


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Stranger

墨田区菊川3-7-1 菊川会館ビル1F

[TEL]050-1751-4052

[休]不定休

https://stranger.jp

※営業時間や上映作品などは、公式サイトでご確認ください





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