「これは、抽象画なんです。」
金魚を描いて20年。金魚絵師・深堀隆介の大回顧展が上野の森美術館で開催中だ。ただ美しいだけではない、深堀の描く作品の秘密について、作家本人に話を聞いた。
地球鉢に込められた意味とは。
透明な樹脂を流し込み、そこに絵筆で金魚を描く。模写ではない。写真も図鑑も、なにも見ずに、彼は筆を動かしている。描き終わったら、また樹脂を流し込み、2日間ほどかけて固まるのを待つのだという。2.5Dペインティングや積層絵画といわれる、この金魚を描く技法は、金魚絵師・深堀隆介がつくり出した独自のものだ。編み出したのは、いまから約20年前。今月から始まった、彼の大規模回顧展では、その進化の軌跡もたどることができる。
「昔の作品は、いま見たら鱗もきちんと描けていないし、仕上がりが甘い。時間をかけて、書き方も変えたし、絵の具も変えた。樹脂の層も増えている。今回の展示では、僕が金魚を描き始めた初期の作品から最新作まで展示します。だから、作品がどう進化したのか、その試行錯誤の歴史も見ることができます」
約300点に及ぶ展示作品のなかには、彼の代表作である2.5Dシリーズだけではなく、ドローイングや未発表の作品も含まれる。新作として、インスタレーション、キャラクター調のタッチの作品も展示されるが、どの作品もやはりモチーフは金魚だ。
「じつは、始めて3年くらいで、金魚を描くことに一度、飽きてしまったんです。でも、描き続けました。続けていれば、なにか発見があるんじゃないかと。そうしたらやっぱり、たくさんの発見があった。その一つが、今回の展覧会タイトルにもなった“地球鉢”という考え方です」
その着想のきっかけは、コロナウイルスだったという。あっという間に、世界中に蔓延するウイルス。この広まり方は、なにかに似ていると深堀は感じた。
「金魚は、水換えを怠るとすぐに病気になってしまいます。しかも1匹が病気になると、ほかの金魚もあっという間に病気になってしまい、最終的にはみんな死んでしまいます。その状況が、コロナの蔓延と似ているなと思ったんです。僕は、金魚を描きはじめた20年前は、そこに自分を投影していました。狭い空間に生き、そこから出られない境遇は、売れない作家だった僕という1人の人間と同じだと。それがいま、金魚と鉢の関係が、人類と地球と同じようなものだと気が付いたんです。金魚鉢は、きちんと観察していれば、水が濁ったり、臭いがしたり、危険のサインに気づくことができます。いまの地球も同じように、サインが出ているのではないでしょうか」
深堀は、金魚を模写しないことにこだわってきた。だからこそ、彼の描く金魚は抽象表現であり、その作品世界はいま、地球と人類という新しい解釈にまでたどり着けたのかもしれない。
「今回の展示では、新しいチャレンジもしています。僕は金魚しか描けない。でも20年描き続けていたら、それは地球と人類になりました。これからも新しい挑戦をしながら、金魚を描き続けていきます」
彼の作品をのぞき込むと、水面に自分の顔が映し出される。その向こうに泳ぐ金魚は、なんなのか…? そんなことも考えながら、この展覧会を回ってみたい。

金魚絵師
深堀 隆介
1973年、愛知県生まれ。美大を卒業後、作家としての活動に悩む日々を送る。創作活動を辞めようと思った日に、自室で放置していた水槽で生き続ける金魚の美しさに心打たれ、金魚をモチーフにした制作を始める。試行錯誤の末、器のなかに樹脂を流し込み、絵具で金魚を描く技法、2.5Dペインティングを編み出し、その作品が評価される。
金魚を描き20年。その軌跡をたどる
約300作品が集まる大回顧展!







本物と見間違うほどのリアルで美しい金魚たちだが、よく見てみるとあることに気づく。金魚の群れのなかには、必ず死んでいる金魚も潜んでいるのだ。集団になればついていけない子も当然出てくる。それが彼にとってのリアルなんだという。
深堀隆介展
「金魚鉢、地球鉢。」
2021年12月2日(木)〜 2022年1月31日(月)
会場 : 上野の森美術館
開館時間 : 10:00~17:00(※12月31日(金)、1月1日(土)は休館)
入館料 : 一般1600円、高校・大学生1900円、小学生1400円
問い合わせ : Tel. 050-5541-8600(ハローダイヤル/9:00〜20:00)
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