有地和毅 / いか文庫店主 / 當山明日彩

本屋さんの座談会[マンガを読まなイカ]

カルチャー,

エア本屋「いか文庫」店主と、「backyard MANGA&SPACE」のプロデューサー、日比谷「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE 」のコミック担当の3人による、座談会が実現。書店員がチェックしている、いま必読のマンガをご紹介。

 

SELECTED BY KAZUKI ARUCHI
有地和毅(あるちかずき)

metro213_sp3_01.jpg『少年イン・ザ・フッド』
著:SITE(Ghetto Hollywood)
扶桑社

metro213_sp3_02.jpg『Sketchy(スケッチー)』
著:マキヒロチ
講談社

 

SELECTED BY IKABUNKO
いか文庫店主

metro213_sp3_03.jpg『往生際の意味を知れ!』
著:米代恭
小学館

metro213_sp3_04.jpg『MOGUMOGU 食べ歩きくま』
著:ナガノ
講談社

 

SELECTED BY AZUSA TOUYAMA
當山明日彩(とうやまあずさ)

metro213_sp3_05.jpg『マイ・ブロークン・マリコ』
著:平庫ワカ
KADOKAWA

metro213_sp3_06.jpg『サブリナ』
著:ニック・ドルナソ 訳:藤井光
早川書房


マンガ好きの3人がいま読みたい作品とは

いか:早速ですが、皆さんの今日持ってきてくれた「いま読みたいマンガ」、教えてください!

當山:私が、今年これは外せないなという一冊は、平庫ワカさんの『マイ・ブロークン・マリコ』。

いか:それ! 私も今年、すごい!!って思ったマンガのひとつです!

當山:去年、最初に電子版で配信された時点で、これがデビュー作!?ってくらい、すごい人が出てきたと口コミで盛り上がっていて。映画のようなスピード感と、絵がとにかくすばらしい。

有地:僕も読みました。ちょっとダラっとした感じと、アンニュイな感じがして、独自の世界観があるいい作品ですよね。

いか:現代社会での女性の生きづらさも描かれていて重いんだけど、アウトローな主人公がかっこいい! ちなみにこの本、開いてすぐのページに、カラーイラストが入ってるんですよね。こういう仕様って最近の単行本の特徴かも。

當山:確かに、そうかも。

有地:「いま読みたい」という意味で、僕が面白いと思った作品は、『少年イン・ザ・フッド』です。

當山:よかったですよね、これ!

有地:現在と過去の高校生、2つの時間軸がつながっていくストーリーなんですけど、ミックステープ売ってたり、グラフィティーライターが出てきたり、90年代のストリートカルチャーが感じられる作品です。何といっても“HOOD感”がアツいんですよね。

いか:わかります! ヒップホップで歌われる感じ!

當山:男の子の秘密基地を見ているような、そんな感覚がしていいなと私は思いました!

有地:そう。いま、いろいろと自粛ムードが漂っているせいか、何げない日常のなかから何かが生まれていく過程が描かれているというのが、すごくいいと思いました。

有地:これにちょっと近いノリを感じるのが、『Sketchy(スケッチー)』。これは、いろんな立場の人が、スケボーを通じて、人とつながりを持っていく話です。冒険物語みたいに、仲間が次第に集まる感じ。インスタとか、いまどきの方法でスケボーにたどり着いて、つながっていくのが面白い。

いか:結局行き着くのがスケボーって、魅力的ですね。

有地:日常にはみんな、つらいことや苦しいことがあるけど、そこからどうやって突き抜けるか。スケボーに、とにかく熱くなれる作品ですね!

 

マンガが文学賞候補になる時代

いか:最近、衝撃的な作品がすごく多い気がするんですけど、そのなかでもこれはヤバい!って作品、ありますか?

當山:私は、グラフィックノベルの『サブリナ』です。作者はアメリカ人のニック・ドルナソ。ブッカー賞(イギリスの文学賞)候補に上がった初めてのグラフィックノベルで、コミックが文学界に殴り込みしたような作品。歴史的一冊が出たなと感じました。時代が変わるぞ、みたいな。

いか:うんうん。私も、すごい大きな出来事だと思いました。

當山:この作品は、表紙の女性サブリナの失踪事件から始まり、さらには殺人事件に発展するダークな物語なのですが、この事件が全米の注目を集め、ネットニュースやSNSが炎上していくんです。周辺の人たちへの理不尽な攻撃も描かれてて…。ただ、この絵やコマ割りは単調で、その無機質さは、私たちが普段目にしているSNSなどの画面を彷彿とさせます。作風すべてに感動しました。

有地:めっちゃコンテンポラリーだ〜。

當山:ひとつの書き込みをするとき、その先にある人の人生まで考えていますか? っていうメッセージも込められていて。ちょっと先に行ってるマンガだなという気がします。

いか:いままさに! という内容ですね。日本のマンガとは絵も全然違うような。しかも、ハッピーエンドではなくて、世知辛い感じがありますよね。「人生ってそういうものだよね」みたいな。

當山:夢見させてくれない感じがありますよね。コミックのくせに(笑)。

 

店主が"闇"を感じた、衝撃作品

いか:私が衝撃を受けた作品は、『往生際の意味を知れ!』。

有地:この作者って、『あげくの果てのカノン』の米代恭さんですよね?

いか:そうです。このお話は、元カレに「妊娠をしたいから精子をください」ってところから始まるんです。

有地:す、すごい…。

當山:私も読みました。ビックリする内容ですよね。

いか:表紙に描かれている女の子・日下部が、持っている器に、精子を入れてほしいといって、それで自分が妊娠するまでをドキュメンタリーにしてもらいたいと元カレにお願いする話なんですけど。これは本当にすごかった。

有地:知らなかった! チェックしてみます。

いか:あともうひとつ。全然系統が違うのですが、『MOGUMOGU食べ歩きくま』。

有地:これ、知ってます!

當山:店主といえば、このLINEスタンプのイメージ(笑)。

いか:ナガノさんという方の作品なんですけど、私この作者のこと、超ヤバい人だと思っていて。なぜって、闇を感じるから。

有地:闇(笑)。

いか:このマンガ以外にも本が出ているのですが、ただひたすら可愛い話もあるし、美味しそうなグルメ情報もあるんだけど、可愛いキャラクターがいきなり残酷な行動に出たり、突然意味のわからない闇がくるんです(笑)。

當山:先が読めないと、ずーっと見ちゃいますよね。

いか:癒やしのなかに、ちょっと毒があって中毒性があるんですよね。ツイッターも毎日チェックしています。

 

WEB発がいま熱い!

いか:紙発じゃなくて、WEB発っていう傾向、強くなってきてますね。それで口コミで広がる、みたいな。

有地:紙のマンガ雑誌や本屋も楽しいけど、最近はオンラインでの出合いも多いですよね。

いか:そうかもしれない。面白いマンガって、どうやって探していますか? アンテナというか、リサーチというか。

當山:来月の新刊リストを見て、「久々にあの人の作品が出るんだ、前作すごかったし、絶対いいタイトルだ!」とか。

有地:僕は店に届く配本ですね。

當山:出版社とかスタッフとか、全然趣味が違う人から聞いて、「めっちゃいいじゃん」ってなることもあります。最近は、コミックアプリも多いかな。

有地:めっちゃわかります(笑)。でも、今日みたいにこうやってフィジカルな本を持ち寄ると、みんなで一緒に見られていいですよね。

當山:確かに。アプリもいいですけど、単行本って、やっぱりホッとする。

有地:最初に話に出た、カラーのイラストが一枚挟まれていることにもいえるんですけど、やっぱりインパクトを感じるのは、実物だなって思います。

いか:マンガって、やっぱりいいですね。今日は、楽しい時間をありがとうございました!


metro213_sp3_07.jpg明治神宮前にあるアパレルショップ 「baseyard tokyo」2Fにある、約1万冊ものマンガが揃うマンガ本屋。ドリンクも楽しめる滞在スペースの店内では、ふらりと立ち寄って椅子に座り、じっくりマンガを選ぶことも。

BACKYARD MANGA AND SPACE

渋谷区神宮前6-12-22
[TEL]03-3486-5127
[営]月〜金 12:00〜21:00、土・日・祝 11:00〜20:00
Instagram:@baseyard



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