60歳を迎えようとしているジャズ·ピアニストの小曽根真。この節目の年に、クラシックとジャズという2つの顔を持つ彼が、サントリーホールを起点とし、ソロコンサートツアーを開催する。いまだからこそ見いだすことができた“音楽の表現”について話を聞いた。
ジャズ・ピアニスト
小曽根 真 Makoto Ozone
1961年、兵庫生まれ。1983年バークリー音楽大学作・編曲科を首席で卒業し、世界デビュー。以降、多彩な才能でジャンルを超えて活躍を続けている。2021年3月には還暦を迎え、記念CDのリリースと全国ツアー「OZONE60」プロジェクトを展開する。
https://makotoozone.com
音楽は、ちゃんと向き合っていれば新しい境地へと導いてくれます
原点回帰となった自宅からのライブ配信
幼少期に出合ったジャズに限らず、クラシック音楽や映画·演劇作品への楽曲提供に演奏など、ジャンルの境界を越えた“ボーダーレス”な音楽を体現してきたジャズ·ピアニストの小曽根真。60歳の節目となる2021年には、自身の誕生日である3月25日のサントリーホール公演を皮切りに、1年間かけて全国を駆け巡る。同時に「OZONE60」と題して発表するアルバムでは、さらなる新境地を拓いた。常に、進化し続ける。それが彼の強みとも言えるだろう。
そんな小曽根さんは、誰もが直面したコロナ禍の緊急事態宣言期間中に、妻である女優の神野三鈴とともに自宅から演奏をライブ配信。毎晩9時になると、その演奏を国内外の聴衆がパソコンやスマートフォンなどで視聴し、話題となった。
「皆さんへの感謝の気持ちを伝えたいということと、有事だからこそ皆さんにとっての“日常”をつくろうと妻と2人で考え、始めたことです。配信は、緊急事態宣言が解除された後も続け、ラストとなった5月31日はオーチャードホールからお届けしました。毎日寄せられるリクエストの中から選曲して、知らない曲は練習をしてお応えしましたが、最終的には460曲演奏したそうです。53日間続けましたが、配信中にウィントン·マルサリスから電話がかかってきて、スマホに写った彼の画像をカメラ越しに紹介したこともありましたね(笑)。配信後は毎晩、皆さまからいただいたコメントを何時間もかけて読ませていただきました。ミュージシャンの仲間のコメントもありましたし、“これでもう1日頑張れる”というような切実な思いを綴ったメッセージもありました。これは自分たちの力が尽きるまでやらなければならないと思って、続けました。この日々を通して気づいたのは、僕がなぜ音楽をやっているかということ。その答えは、ピアノを弾いて、それを聴いた人に喜んでもらいたいというシンプルなものでした。初心に立ち返ることができたんです」
ジャズの即興性をさらに究める
自分と、仲間と、そして聴衆とともに歩んできた音楽の道。その途上にあり、60歳を迎える彼がいまだからこそ挑む“表現”とは、なんなのだろうか。
「これからの僕の目標は、“等身大のあるがままの小曽根真”をご覧に入れたいということです。それはつまり、自分に聞こえている音だけで、どれだけできるかということ。これまでは、あくまでもどうすればお客様に喜んでいただけるかということを前提にプログラムを考え、弾いていたのですが、自分に聞こえている音があるなら、それをそのまま聴いていただこうと思いました。もしかすると、その演奏が聴き手によっては不完全燃焼だと感じるかもしれません。お客様に楽しんでいただくことを大切にしてきた僕にとっては、とても怖いことでもあるんです。それと同時に、これまで僕を支えてくださった皆さんの感性を信じることでもあります。エンターテイナーとして、“楽しいですよね”と問いかけるのではなく、“いまはどんな感じですか?”とたずねるような感じ。皆さんとのつながり方も変わっていくのかもしれません。ジャズの即興性というのは、その瞬間に生まれる音楽ですから、よりピュアな即興性に近づくために、それを究めていくべきだとも思っています。今回のアルバムにも、その思いは反映されていて、いままでのアルバムとは全然違う感じがしています。“これでいい。これ以上は弾かない”といった自然体で演奏に取り組むことができたので、たった4日間でレコーディングが完了しました」
感情を共有することで生きていると実感できる
新しいアルバムでは、自身が手がけた曲やクラシックなどの新たなレパートリーが収録されている。さらにこれらの曲を披露する場として、サントリーホールでのソロコンサートが待っている。
「音楽はちゃんと向き合っていたら、進むべき道を示してくれるんです。それには終わりがない。もういいだろうって思うんですが、次がしっかり見えてしまうので、それはやらなければならないと思います。僕はできないことがあると燃えてしまうタイプなので、ワクワクするんです(笑)。これまでにオーケストラやトリオ、ゲイリー・バートンとのデュオなどで、サントリーホールのステージには立ったことがありますが、ソロでやらせていただくことは、とても光栄です。あの場所でソロで弾くのは最高に気持ちがいいんですよ。そのステージに向けて、コンポーザーの小曽根真からプレーヤーの小曽根真へと移行して、余分なものはそぎ落としているところです。演奏する曲は、いくら自分が作曲したからといって、簡単に弾けるつもりでいてはいけません。何が起きても平気というくらい、自分の細胞レベルに浸透するまで弾き込んでいかないと失敗してしまうこともあるんです。そのレベルに達してさえいれば、どの曲を弾いても、そのとき、そのときで表現が変わってきて、同じものはないんです。僕にとって奏でる歓びとは、聴衆と気持ちを共有すること。全く異なる人生を歩んできた人たちと、僕が届けた感情を共有できた瞬間に、僕は自分が生きていることを実感できるんです」
彼のピアノを聴いて、会場で生まれるかけがえのない瞬間をぜひ体感してほしい。
《Live Concert》

小曽根真 60th Birthday Solo
OZONE 60
Classic×Jazz
クラシックとジャズの2つの顔で綴るソロ公演。60歳の誕生日である、3月25日(木)のサントリーホールからスタートし、1年間をかけて全国をかけめぐる!
東京公演
3月25日(木) 19:00開演
サントリーホール 大ホール
料金:S 7500円、A 6500円
《New Release》
Anniversary Solo Album
OZONE 60
今年、60歳の節目を迎える小曽根真のアニバーサリーアルバム。クラシックサイドとジャズサイドの2枚組で3月3日(水)に発売!
4400円 Universal Music
収録予定曲
クラシック:モーツァルト、ラヴェル、プロコフィエフから即興まで
ジャズ:小曽根真オリジナル曲「Gotta Be Happy」、「Always Together」、「The Puzzle」ほか