熱海の魅力をアートで再発見する。2021年より始動した「PROJECT ATAMI」が描く、熱海がアートであふれる未来とは?
PROJECT ATAMI
アートで未来につなぐ永続的なプロジェクト
コロナ禍で下降していた観光業の回復を図るため、ACAO SPA & RESORT(旧:ホテルニューアカオ)の元社長である赤尾宣長氏が声をかけたのが、寺田倉庫の元代表取締役社長兼CEOで天王洲エリア経営の立役者として知られる中野善壽氏。そして、熱海の創生の皮切りとして2021年に始動したのが、『PROJECT ATAMI』だ。中野氏とともに事業に携わる冠那菜奈さんは、このプロジェクトのプログラムディレクターを務めている。
「熱海は古い建物が多く、裏路地に一歩入るとレトロな雰囲気が残る街です。また、都心からのアクセスもよくて別荘地でもある。この立地のポテンシャルをいかせるのはアートだと考え、『PROJECT ATAMI』が始まりました。大きな2つの軸として、『ATAMI ART RESIDENCE』と『ATAMI ART GRANT』という、アーティストを熱海に招き入れて作品を発表する場を設ける取り組みがあります。どちらも熱海の魅力をアートによって再発見し、目に見えるかたちにすること、そしてそれを多くの人に体験してもらうことが根幹にあるんです。イベントでは、参加したアーティスト計50組の作品が、熱海市内の施設や看板、壁面など、いたるところに展示されます。初めて開催した2021年は、無料開放していたことが功を奏してSNSでも話題になり、1日で1万人が来場する日もあったんです。当時閉館していたホテルニューアカオを会場として使用したことで、“泊まれなくなったホテルに入れる”という興味が相乗効果を生んだのだと思います。ゆるやかに開催していくつもりが、予想以上の反響で、現場の私たちはうれしい悲鳴でした」
現在は会期中にしか見ることができない作品も、いずれは常設していつ来ても鑑賞できるように、熱海をアートであふれる街にしていくことがチームの目標だと、冠さんは話す。
「大きなビジョンとして、アーティストのパトロン(支援者)が年間1万1000人集まる『ACAO ATAMI CLUB』という計画があります。ACAO SPA & RESORTが所有する広大な敷地とリゾート事業の経験をいかして、アートを取り込むのです。建設予定の海や森の高級ヴィラに支援者を呼び込み、滞在中にアートに触れる。そして作品を購入してもらうことで、アーティストの生活が潤う。そうやって買い手とアーティストが密接に絡み合い、より豊かにアートが楽しめる街になるのが理想です」
つまり、文化や芸術を愛する人が住むことで、街の文化レベルを上げていく試みなのだ。このプロジェクトでは、一過性の観光業ではなく、永続的な街づくりを見据えている。
「プロジェクトのメンバーにも子供が生まれたばかりで、その子たちが大人になってからの熱海がどうなってほしいか、という視点で街づくりを考えています。建物はつくって終わりではなく、どんどん変化して新陳代謝していってほしい。熱海は出生率が低いという課題もあり、駅前に子供を預けて働きに出られる施設を設けるなど、教育機関を整えることも行政に働きかけています。将来的には、イベントに来てくれる若い世代が、移住や二拠点生活として熱海を選び、街にいいきっかけを生み出してくれることを願っています」

「ACAO ART FOREST 2023」展示風景より、Taira Ichikawa,《バオバブ プランテーション》©PROJECT ATAMI
アーティストと出会い、サポートする。
公募によって集まった若手アーティストの中から、認定者を決定。協賛や寄付、クラウドファンディングによる資金をアーティストに給付し、制作活動をサポートする仕組みだ。今年は「巡−Voyage ATAMI」をテーマに、独自の視点から熱海をアートで表現してもらう。ATAMI ART RESIDENCEに参加するアーティストたちの作品とあわせて、2023年11月18日(土)〜 12月17日(日)の期間に、ACAO FORESTを含む熱海市内で広く展示する予定。

ATAMI ART GRANT 2022」ACAO BEACH入口の展示風景より、MES,《ア ミ/ A-MI》©PROJECT ATAMI, Photo by Naoki Takehisa

「ATAMI ART GRANT 2022」熱海魚市場の展示風景より、Kouichi Ohno,《遠くにみえる、何もみえない》©PROJECT ATAMI, Photo by Naoki Takehisa

「ATAMI ART GRANT 2021」姫の沢公園の展示風景より、Takashi Nakajima,《カスケード》©PROJECT ATAMI, Photo by kabo
アーティストが滞在し、制作に浸る。
2021年3月にスタートした、アーティストの制作活動支援を目的としたプロジェクト。1年を全4タームに分け、年間20組のアーティストが熱海に滞在しながらその魅力をアートで表現。今年は新設されたばかりのATAMI ART VILLAGEが滞在拠点だ。制作された作品は、ATAMI ART GRANTの会期中、熱海市内に展示される。多種多様なアーティストとの交流を通じて、さまざまな角度から熱海の魅力を発見できる。

「ACAO OPEN RESIDENCE #6」展示風景より、Asako Fujikura,《庭づくり計画》©PROJECT ATAMI, Photo by kabo

「ACAO OPEN RESIDENCE #6」展示風景より、Yoshinori Takamura,《ACAO CHAIR COLLECTION》©PROJECT ATAMI, Photo by kabo

「ACAO OPEN RESIDENCE #7」展示風景より、Yuma Tomiyasu,《Unison_Circle》©PROJECT ATAMI, Photo by Naoki Takehisa