photo: Shigeo Kosaka text: Keiko Ageishi edit: Kohei Nishihara,Shiori Sekine(EATer)

男性ホルモン[メンズ研究]


 フェムケアプロジェクトでは、これまでに女性の健康課題について考える特集を何度も組んできました。そこで気づいたことは、世の中にあるさまざまな課題解決には、立場や性別を超えた相互理解が欠かせないということ。だからこそ、男性特有の健康問題やココロとカラダについても考えたい。11月19日は、「国際男性デー」です。この日をきっかけにまずは知ることからはじめよう。男性の家事・育児参加がどんな社会をつくるのか?家族社会学を専門とする中里英樹教授が解説!


STUDY
「男性ホルモン」

男性ホルモンとは何なのか? 
その役割や作用について、医学博士・堀江重郎先生がレクチャー!

metro249_special_01_1.jpg

堀江重郎先生
順天堂大学大学院医学研究科泌尿器外科教授。医学博士。日米で医師免許を取得し、救急医学、泌尿器科学、腎臓学、分子生物学の研鑽を積む。日本初のメンズヘルス外来を開設。近著に『若返りホルモン「テストステロン」を高める食生活』(さくら舎)がある。
 

冒険心・社会性・競争心を司る
それが男性ホルモン「テストステロン」です。

 男性ホルモン「テストステロン」は、生物学的に男性らしい肉体をつくる作用がありますが、精神面にも大きな影響を与えています。「社会性のホルモン」ともいわれ、狩猟時代の生きる術だった「狩り」を成功させるための要素である冒険心や社会性、競争心とも深い関わりがあるのです。

 その分泌量は、家族や会社、コミュニティの中で認められることで増加します。いまはリアルなコミュニティでのつながりが希薄になっているため、テストステロンが減少し、男性更年期の症状が出る人が増えています。男性更年期障害になると筋力の低下ややる気、制欲の低下などといった症状があらわれます。

 映画『Shall we ダンス?』(監督・周防正行 1996年)は、男性更年期障害のリハビリ映画として見ることもできます。生活にどこか物足りなさを感じていた男性が社交ダンス教室に通いはじめ、仲間ができてダンスにのめり込み、人生に輝きを取り戻すというストーリーです。主人公はダンス大会にも出場しますが、競い合うことでテストステロンが増加し、所属する組織への愛着も高まります。この映画には仲間とのつながりやセルフ・コンパッション(自己肯定感)、恋といったテストステロンを増やすのに重要な要素が詰まっているのです。

 テストステロンについて知ると、本当の豊かさとは物質的なものではなく、生きがいを見つけ、仲間に囲まれ自分らしくあることだとわかります。更年期はいわば人生のハーフタイム。後半戦をどう過ごすかを考えるいいタイミングです。疲れ切っていても、ケアすれば元気を取り戻せます。ぜひ若いうちからテストステロンに注目し、人生を豊かに過ごしていただきたいですね。


about TESTOSTERONE

男性ホルモンの代表テストステロンは
男女ともに持っている

 「性ホルモンとは、男性らしい身体や機能、女性らしい身体や機能をつくるもので、その代表は、女性ならエストロゲン、男性ならテストステロンになります。テストステロンは、男性なら精巣(睾丸)、女性も卵巣でつくられていて、筋肉や骨の形成や代謝機能、認知機能や記憶力を高めるなど重要な役割を果たしています。男性のテストステロンがもっとも増えるのは10代後半〜20代前半です。その後はゆるやかに減少していきますが、そこには個人差があります。急激に減少すれば、いわゆる男性の更年期障害(LOH症候群)の症状が表れます。女性は閉経後にエストロゲンが急激に減りますが、テストステロンは減ることなくエストロゲンよりも優位になります」
 

骨や筋肉に作用して認知機能にも関係あり
メンタル面での作用も

 「テストステロンには、筋肉や骨を強くする作用、動脈硬化を予防する作用、造血作用、性機能、抗炎症作用、認知機能などがあり、健康を保つために重要な役割を担っています。メンタル面では、ハツラツさや思いやり、積極性などにも深く関わっています。原始的な狩猟本能もテストステロンとの関わりが深く、活動力やチャレンジ精神、記憶力や空間認知力を支えています。テストステロンが急減すれば、若くても男性更年期障害の症状が表れることも。男性の更年期障害の症状は、顔がほてる、急に汗が出る、イライラする、ハツラツさが失われる、やる気がなくなる、笑顔がなくなる、何事もめんどうになる、集中力がなくなる、身体的には筋力が低下、頻尿、性機能の低下などです」
 

正直で公平、平和的
社会を正すヒーローはテストステロン値が高い

 「男性ホルモンは、力強さや行動力と関係性があり、筋肉質な身体づくりと深い結びつきがあります。それゆえに、攻撃性や暴力性を生み出すといったネガティブなイメージを抱いている方もいるかもしれません。けれど実は、最近の研究によると、テストステロンの体内濃度を高めることによって、攻撃性や暴力性とは対極にある、正直さや公平性、計画性といったものを高める働きがあることがわかってきました。つまりテストステロンには、ボランティアなどをして社会の役に立ちたいというような気持ちを高める働きもあるということです。社会の歪みを正すヒーローや、多くの人から支持されるリーダーは、テストステロン値が高い傾向にあると考えられます」
 

社会的変化によって男性ホルモンは減少
放置せずに治療を

 「男性の更年期障害が、女性の更年期障害と異なるのは、生活の改善や治療をしないと症状がいつまでも続くところです。テストステロンが減少する原因でもっとも多いのはストレスですが、過労や人間関係、社会からの隔離(定年退職)などが引き金となることもあります。定年退職後も趣味を楽しむとか、コミュニティの付き合いがあるなど、仕事場や家庭以外に居場所があり、周囲の人と絆がある人はテストステロンが十分に分泌され、更年期障害も起こりにくいとされています。テストステロンを増やすためには社会との関わりを高め、その中で役割を得て自身の必要性を認めてもらうことも重要です。同時に、ビタミンDや亜鉛を補うこともおすすめです」





この記事をシェアする

LATEST POSTS