輝く主人公たちに注目したい〈邦画〉の数々。[見逃せない映画]

映画/ドラマ

 2020年代に生まれた邦画も、じつに奥が深くて面白い。映画制作の環境が変化したことによって、まさしくこの時代ならではの作品が生み出されている。映画館「ストレンジャー」代表の岡村忠征さんが、そうした背景とともに、7つの重要な作品を教えてくれた。


多様性を認め、強さを持った人物像が描かれている。

 2020年代の邦画は、ジャンルが幅広く、主人公の多様性が魅力的な作品が多いことが印象的でした。その理由としては、日本の映画界において「人」「モノ」「金」を取り巻く環境が大きく変わったことが挙げられると思います。

 「人」は、監督の人材が豊富であること。世界的に評価の高い監督やいま勢いのある監督、ユニークな作品をつくる若手の監督など、日本の映画監督は、世界的に見ても層が厚いのです。「モノ」は、デジタル技術が発達したことで、撮影の手法が広がったり、美しい映像が撮れるようになったりと、映画のクオリティを底上げしてくれたこと。「金」は、コロナ禍に文化庁が行った支援「AFF(ARTS for the future!)」やクラウドファンディングの普及によって、資金調達の幅が広がったことです。とくにAFFは、この制度がなかったら製作されなかった作品もあることでしょう。このように、日本映画を取り巻く環境が変わってきたからこそ、この時代に生まれた作品が多様性を持ったと言えるのかもしれません。

 実際に2020年代を振り返ってみると、女性が輝く物語が多いということに気づきました。今回セレクトした作品は、女性の登場人物がとても印象的な作品ばかりです。『ケイコ 目を澄ませて』は、ひたむきに自分のやるべきことを考え、努力を重ねていく主人公が印象的。彼女の生きざまの美しさに魅了させられる。『麻希のいる世界』は、一人で世界を切り拓いていく主人公たちの行動力に刺激を受ける。『にわのすなば』は、まるで生と死の間を漂っているかのような、つかみどころのない主人公が新鮮で印象的。『ザ・ミソジニー』は、虚構と現実が入り交じる展開と女性の人間的な怖さが記憶に刻まれる。『春原さんのうた』は主人公が抱える孤独と、彼女を支えようとする周りの人々の温かさに胸を打たれる。『空に住む』は両親を失った主人公の再生の物語でありながら、決してかわいそうな存在として描かれていない点に新しい主人公像を感じる。そして『偶然と想像』は、3つの短編からなるオムニバス映画。どの物語の主人公も激しいドラマを抱えながら日常を生きる様子が、見ていて面白い。

 7作品とも物語はまったく異なりますが、共通しているのは、どの作品の主人公にもある種の”強さ”を感じる点。芯の通った強さを持っていて、その姿にエネルギーをもらえるんです。さまざまな価値観が揺らぎ、変化している時代だからこそ、映画における人物の描き方も、多様化しているのかもしれません。2020年代に生まれた邦画に見られる、思わず引き込まれてしまうほど圧倒的な魅力を持つ人々。その姿を、ぜひ見届けてほしいです。

metro250_special_03_10.jpg

「ストレンジャー」代表
岡村忠征さん

映画美学校を卒業後、映画制作に携わる。その後はグラフィックデザイナーに転身し、2011年にアートアンドサイエンス株式会社を設立。2022年9月、東京・菊川に映画館「ストレンジャー」をオープンし、代表を務める。


metro250_special_03_3.jpg

©2022 映画「ケイコ 目を澄ませて」製作委員会/COMME DES CINÉMAS

metro250_special_03_4.jpg

2022年公開

『ケイコ 目を澄ませて』

聴覚障害を持ちながらも、日々ジムで鍛錬を積み、プロボクサーとしてリングに立ちつづけるケイコ。「ハンディキャップを背負いながらも、寡黙かつストイックにボクシングと向き合うケイコの姿。“人はなぜ生きるのか?”と問われているようです」(岡村さん) 
Blu-ray&DVD販売中(Blu-ray:6050円/DVD:4950円)
販売元:ハピネット・メディアマーケティング 
監督:三宅唱


metro250_special_03_2.jpg

©SHIMAFILMS

2022年公開

『麻希のいる世界』

ある日、高校2年生の由希は美しい歌声を持つ少女・麻希と出会い、音楽づくりを始める。「塩田監督作品は、言葉よりも行動を信じている主人公たちの物語が多い。彼女たちの強さが映っています」(岡村さん) 
随時、イベント上映を開催
監督:塩田明彦


metro250_special_03_6.jpg

©kinokoya2022

2022年公開

『にわのすなば GARDEN SANDBOX』

アルバイトの面接を受けるため、知らない街・十函(とばこ)へとやって来たサカグチ。仕事を断り、行くあてのない彼女は、街を歩きつづけて不思議な出会いと別れを繰り返す。「これまでの映画になかった主人公像が新鮮です」(岡村さん) 
下高井戸シネマにて2024年早春上映予定
監督:黒川幸則


metro250_special_03_8.jpg

©️2022『ザ・ミソジニー』フィルムパートナーズ

2022年公開

『ザ・ミソジニー』

劇作家の女とかつて女の夫を略奪した女優による、不気味な洋館で行われる芝居の稽古。「人間の情念や歴史が持つ闇の力が、うねりを上げて画面から飛び出してきます」(岡村さん)
Blu-ray&DVD販売中/U-NEXT、Amazonプライムほかにて配信中
監督:高橋洋


metro250_special_03_1.jpg

©Genuine Light Pictures

2022年公開

『春原さんのうた』

大切な人とのつらい別れを背負いながら新生活を送る24歳の沙知は、出会う人のやさしさに触れながら前へ進んでいく。「人間の孤独と、支えようとする周りの人たちの温かさが感動的で、胸に迫ってきます。杉田監督の新作にも要注目です」(岡村さん) 
最新作『彼方のうた』2024年1月5日(金)よりロードショー 
監督:杉田協士


metro250_special_03_7.jpg

©2020 HIGH BROW CINEMA

2020年公開

『空に住む』

両親の死による喪失感を抱えたまま、親戚の配慮でタワーマンションに住むことになった直実。あるスターとの出会いをきっかけに、彼女の生活は一変する。「現実世界に淡々と対峙しながら進む、彼女の強さに勇気づけられます」(岡村さん) 
Amazonプライムにて配信中
監督:青山真治


metro250_special_03_5.jpg

©︎ 2021 NEOPA / Fictive

2021年公開

『偶然と想像』

友人の恋バナを聞く女性、教授の元へ学びに訪れる学生、20年ぶりに同級生に再会した女性。そんな何げない平和な日常が、ある“偶然”をきっかけに一転する。「人間は誰しもがドラマを抱えている。個性的な主人公たちが素敵です」(岡村さん) 
Blu-ray販売中(5170円)
販売元:NEOPA
監督:濱口竜介


特集上映はおまかせあれ!

metro250_special_03_9.jpg

岡村さんが代表を務める菊川の映画館「ストレンジャー」は、国やジャンルを問わず、趣向を凝らした特集上映が魅力。映画に詳しいスタッフとの会話も楽しんでみては。

ストレンジャー
墨田区菊川3-7-1 菊川会館ビル1F
Tel. 080-5295-0597
[休]不定休 
https://stranger.jp



映画/ドラマ


この記事をシェアする

LATEST POSTS