本の話だけの穏やかなSNS「Reads(リーズ)」。リリースしたフヅクエの阿久津隆さんと読書をもっと幸せに楽しむ方法について話を聞いた。
読み終わらなくてもいい。
新しい読書記録の提案
編集部:読書の記録をつけることが苦しくなった阿久津さんご自身の経験から、Readsは生まれたそうですね。
阿久津:そうなんです。アイデアの種は何年も前からありました。僕は記録を残すことが好きで、読書記録もずっとつけていました。最初は「読み終わった本」だけを記録していたんですが、これが次第に苦しくなってきて…。読み終わらないと記録できないルールだと、結局「読まなきゃ」という重圧になるんですよね。それってちょっとヘルシーじゃないなという感覚がありました。Xで読書関連の投稿を見ても、「読み終えなければいけない」みたいな感覚や、「今月は全然読めてなくて」みたいな負い目がある人が多いなと感じていました。本来は楽しいはずの読書が、まるで宿題のようになってしまうんです。そこで読書記録の発想を変えました。「1ページでも読んだら、それをその日の読書として記録する」というやり方に。すると、同じ本のタイトルが10日間くらい続くような形になる。でもこの方法に変えたら、読み終わらなくても「読書の痕跡」が残るので、気持ちが楽になったんです。
編集部:読み終わらなくても記録していい。その思いがReadsの特徴であるタグ(「気になる」「読み始めた」「ふと思い出した」などユーザーが自由に設定できる)につながっていくのですね。
阿久津:そうですね。そしてもう一つ、アイデアの種になったのは、アウトプットの仕方でした。以前は読み終わった本の読書感想文みたいなものをサイトにアップしていたのですが、これも苦しくなってきて。読んでいる途中から「いいレビューを書かなきゃ」という気持ちになることがイヤだったんです。文章を書くこと自体は好きなので、サステナブルな形でやり続ける仕組みを模索していたなかで見つけたのが「読書日記」というスタイルでした。ただの日記なんですけど、その日読んだ本のことや、本屋で選んだときの話、よかった箇所の引用など、感想文ではない形で書くんです。このほうがずっと楽に続けられました。
編集部:Readsの開発でとくに工夫した点はありますか?
阿久津:ほかのSNSにある「いいね」の数やフォロワー数といった数字的な要素はひたすら省きました。人間が数値化される感覚って、どこか不自然だなと。自分自身もほかのSNSを使っていると「この投稿はいいねが多いな」「これは全然反応がないな」とつい気にしてしまう。それってあまり健全な感覚じゃないなと思ったんです。それから、フォロー・フォロワー関係も見えないようにしています。なぜ見知らぬ人に「自分が誰をフォローしているか」を見られなければいけないのか。そこにも違和感があったので。
編集部:「いいね」や「フォロワー数」といった数字を取り除いたReadsには、SNSというよりも「日記」を読んでいるような感覚がありました。
阿久津:確かにそうですね。最初は「リーディングダイアリー」という名前を考えていたくらいで、「SNSをつくろう」という発想はなかったんです。
編集部:それでもSNSという形に行き着いたのはなぜですか?
阿久津:既存の読書記録サイトって、他人の存在をあまり感じられないと思っていたんです。トランクルームのような感じで、1人で自分の部屋に入って本棚を整理する。でもReadsは違って、真ん中に広場があって、その周りに個人のスペースがあるイメージ。広場を通って自分の場所とを行き来する。そういう人の温度が感じられる場所がいいなと思って、自然と「SNS」になりました。
編集部:Readsを見ていて、印象に残った投稿はありますか?
阿久津:ある方の投稿で、くどうれいんさんの本について「給油中にちょっと読んだ」という一言があったんです。そのシンプルな言葉に無性に感動しました。この人はガソリンスタンドの車の中で本を開いたんだと想像したら、なんだか特別な瞬間を共有された気がして。こういう日常の読書シーンを気軽に残せる場所っていままでなかったように思います。
編集部:読書シーンを通して、その人の人生の一瞬が映し出されるんですね。
阿久津:そうなんです。何年も前の金曜日の夕方、代々木上原の「文教堂」(現在は閉店)で見かけた光景がいまでも鮮明に残っています。仕事帰りの女性が漫画を2冊買っているのを見かけたんです。1週間の仕事を終えて、読みたかった本を手に取る。その人の「この時間を楽しみに頑張ってきたんだろうな」という生き生きとした表情。本との出会いとその瞬間の感情を大切にする。そんな読書体験の記録を残せる場所をつくりたかったんです。
TAKASHI AKUTSU
1985年生まれ。初台・下北沢・西荻窪で「本の読める店fuzkue」を運営。著書に『本の読める場所を求めて』(朝日出版社)、『読書の日記』シリーズ(NUMABOOKS)など。
about
「Reads」
「Reads」は本の話題だけのSNSアプリ。すべてのポストは、出版された本に紐づくようになってはいるが、投稿内容に縛りはない。読了した本の感想を書くだけでなく、書店で見かけただけの本のことを書いたり、本のことを話していた友人との思い出を書いたりと、日記のように使える。もちろん、気になる本の感想を検索することもできる。いいね数もフォロワー数も非表示だからこそ、承認欲求の呪縛もない(はず)だ。
COLUMN 2
いま「独立書店」が増えている!?
全国の書店は、現在約1万店舗ほど。その数は、この20年で半減した。書店のない市町村も3割近くにのぼるという。その一方で、「独立書店」と呼ばれる書店は増えていると言われる。
「明確な定義があるわけではありませんが、独立書店とは個人や少人数で始めた小規模な本屋(あるいは本のある場所)を指します」と話すのは、独立書店をウォッチし続けている本屋ライターの和氣正幸さん。和氣さんによると、独立書店の魅力は、その小ささにあるという。間取りが小さいからこそ、店のつくりや棚に並ぶ本の並びから店主の個性がわかりやすく、店主と客との距離感も近い。だから親近感も生まれやすい。
「すべてがデータ化されシステムに回収されがちな世界にあって、人間らしさを感じられる場所とも言い換えられるかもしれません。また、ひとり出版社の本やZINEは大型店では見つけにくく、独立書店でしか見つからない本もあります」
そんな魅力のある独立書店が増えている理由のひとつは、書店を開業するハードルが下がったこと。書店開業のノウハウ本が出版され、シェア型書店の仕組みも広まり、さらにクラウドファンディングを利用した開業も定着。小規模書店でも本の仕入れがしやすいサービスも登場した。
「本のある場所をつくるハードルが相対的に下がりました。そこに起きたのがコロナ禍です。都心部に出られなくなった人々が地元に目を向け直したことで、本のある場所がなくなっていることに本好きが気がつき、開業がこの数年でとくに増えたと考えられます」
存在感を増す独立書店。見かけたら、その扉を開けてみよう。