《音楽日々帖》じわじわくる音楽


 春がだんだん深まりをみせる季節ということで、今月は「じわじわくる音楽」特集!

 まずはジェイ・ダニエル『ブロークン・ノウズ』。ドラムスティックやアコースティック・パーカッションのリズムとシンセ音を組み合わせたミニマルな雰囲気のサウンド。こういうハウスもあるのですね。静かでひんやりとしているのに土着的なグルーヴを感じさせるリズムも、密かにじわじわ上がってくる感じがして気に入っています。

 CDショップで見つけたベトナムのレアグルーヴを集めたコンピレーションが強烈でした。収録されたのはベトナム戦争真っ只中。当時、地元のミュージシャンは、ナイトクラブやベース・キャンプで米国人兵士を相手に演奏していたそうです。映画『グッドモニング・ベトナム』のサントラをベトナム人目線でつくったら、きっとこんな感じになるのでは? サイケデリック・ロックやファンク、はたまた日本の歌謡曲やフレンチ・ポップ風な曲もあって、それを拗音(ようおん)(ニャ・ニュ・ニョなどの音節)が多いベトナム語で歌うアンバランスさに、じわじわきます。

 最後はこのコンピレーションと同時代にリリースされたカーティス・メイフィールド『カーティス』から「ムーヴ・オン・アップ」。この曲は開始4分で一旦落ち着き、ドラムとコンガのソロで仕切り直し、残り5分間は長いインストになっています。じわじわと熱量を上げていく後半部分があるからこそ、9分間の疾走が感動的なのです。「ムーヴ・オン・アップ」を、この春新たなスタートを切るあなたへ贈ります。カーティスの叱咤激励が追い風となりますように!


JAY DANIEL 『Broken Knowz』

デトロイト出身の25歳(リリース時)のプロデューサー/DJ。本作がデビューアルバムとなる。90年代ハウスで活躍したシンガー、ナオミ・ダニエルを母に持つ

BEAT RECORDS 2016

V. A. 『Saigon Rock & Soul: Vietnamese Classic Tracks 1968-1974』

60年代後半から70年代前半にかけてのベトナム大衆音楽のレア・トラック集。現存する貴重なシングル盤やカセットテープ、オープンリールから音源を収録

輸入盤 2012

CURTIS MAYFIELD『CURTIS』

70年代、ニュー・ソウル運動の中心人物のひとり。インプレッションズ脱退後のソロ第一弾。ジャケットを手がけたのはグラミー賞も受賞したアートディレクターのボブ・ケイトー

ワーナーミュージック・ジャパン 2014


selection&text:稲葉智美(いなば・ともみ)

ラジオDJとして活動するほか、BGM選曲やナレーションを手がける。フェスとライブを愛する音楽女子。好きなお花見スポットは「朝の目黒川」

Twitter: @tommyjan15





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