selection&text: 稲葉智美

《音楽日々帖》夏を心地よく


 この夏はどこへ行こうか、どんな服を着ようか。そして、どんな音楽を聴いて過ごそうか。あれこれ考えるのが楽しい7月です。冬の終わりにリリースされ、夏がきたらもう一度聴きたいと思っていたのはエス・キャリーの新作。ソフトなボーカルは味わい深く、ジャケット写真にもあるようなアメリカの自然を感じるサウンドは、彼がドラマーを務めるバンド、ボン・イヴェールにも通じるところがあります。力強いドラムが印象的な「More I See」は、テイラー・スイフトがスポティファイのプレイリストに入れていて、お気に入りのようですよ。

 寺尾紗穂の歌声は、自然素材をまとうような心地よさ。なかでも「雲は夏」は、都会を抜け出して旅気分に誘われる“夏待ちわびソング”です。私はなぜか吹奏楽の練習に明け暮れたノスタルジックな夏の記憶が蘇りました。作品全体で歌われる「たよりないもの」とは、純粋無垢な子供のことかもしれないし、喪失感を抱く人が生きる「今」かもしれない。夏から秋にかけての情緒的な季節に、じっくり聴き込みたい一枚です。

 「妊娠中の妻が暑い夏を心地よく過ごせるように」という思いを込めたヘニング・シュミートのアルバムが届いたのは、ちょうど10年前の7月のことでした。ひんやりした電子音とピアノが空間を漂うミニマル音楽。ヘニング・シュミートのピアノは、インドアに過ごす休日や、穏やかな朝にも心地よいです。

 清涼感あふれる音楽は、都心の酷暑をしのぐのにも一役買うかもしれません。どうぞ今年も素敵な夏を。


S.CAREY『Hundred Acres』

 ボン・イヴェールのドラマーとして知られるマルチ・インストゥルメンタリストの3作目。ウィスコンシンにあるバンドのスタジオで録音し、ジャスティン・バーノンも参加

Hostess 2018

寺尾紗穂『たよりないもののため』

 文筆家としても活躍するシンガーソングライターの8作目。凛とした歌声と静かな音が紡ぎ出す10の物語。ジャケット写真および表題曲のPVを手がけるのは写真家・大森克己

P-VINE 2017

HENNING SCHMIEDT『Klavierraum』

 ドイツのピアニスト、作曲家、編曲家。『ピアノの部屋』と名付けられたソロピアノ曲集。「砂糖240g」「バター110g」「牛乳120cc」…と何かのレシピのような曲名もユーモラス

flau 2008




この記事をシェアする

LATEST POSTS