《お多福美人講座》断り美人

コラム

 新橋の"売れっ妓(こ)芸者"だった千代里が、美人への道をご案内。今日も一日、ささやかな心がけが美をつくり、福を招きます。

 先日、久方ぶりに京都・祇園のお座敷に上がったときのこと。ほめ言葉ではなく、「それはあきまへん」とか「無理どっせ」という芸妓さんの言葉にお客様がうれしそうにされるのを見て、「断ること」が相手から大事にされるために、また良い関係を築くためにいかに大切かということをまのあたりにしました。逃げると追いたくなる男性の本能を刺激している部分もあるのかもしれませんが、「自分を大切にして、軸を持っている芸妓は、こちらも大事に、贔屓にしたくなるものだ」というお客様の言葉が浮かんできました。

 そもそも花柳界は、ご存知の通り一見さんお断り。ご紹介がないとお座敷に上がっていただけません。お座敷は、メニューからお選びいただく西洋スタイルではなく、お客様のお好みにあわせたものをあらかじめご用意してお待ちするので、お客様をよく存じ上げなければ満足なおもてなしができません。だから一見さんはお断りなのよ、と芸者になりたての頃に教わりました。また、花柳界ではその日にお支払いしていただくことはありません。昔は盆と暮れの二回のご請求だったそうで、その間は、お代の他に芸妓の花代、二軒目、三軒目のお店の分も料亭が責任を持って立て替えていました。それだけお客様との信頼関係が結ばれていたのです。そんなわけで、最初は格式張って感じるかもしれませんが、一旦ご贔屓いただくと、家族ぐるみで何代にもわたっておつきあい下さるお客様が多いのです。永いよいおつきあいのためには、基準を設けることも大切なのかもしれません。

 なんでも相手の要望を受け入れていると、互いに尊重することを忘れがちになります。また、無理をするとかえって相手に不誠実になることもあります。誠意ある丁寧な言葉でお断りをすることも、自分と相手を大切にするために、時には必要かもしれませんね。

ちより

エッセイスト。元新橋芸者。著書に『捨てれば入る福ふくそうじ』『福ふく恋の兵法』など。美しい人をみると、どこがどんなふうに魅力的なのかを分析して言葉に変換するのが好き



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