6月に公開される綾野剛の主演映画『武曲 MUKOKU』で、熊切和嘉監督と綾野は二度目のタッグを組んだ。綾野にとっては約5年ぶりの熊切組。この作品にかける想いには、特別なものがあったという。
「初めて熊切組に参加した『夏の終り』では、力が足りずやり残したことが多かったんです。だから、もしまた熊切さんと一緒にできるチャンスがあれば、監督が求める以上の表現ができる役者になって現場に臨みたかった。その想いで5年間経験を積んできたので、お話をいただいたときは、ようやく熊切さんに自分の身体を全投資できる、魂を現場に預けることができる、という気持ちでした」
映画の原作は芥川賞作家の藤沢周。本作では、剣道に命を注ぐ厳格な父と、その父親に幼い頃から厳しく鍛えられた主人公・矢田部研吾の間に生まれる葛藤を中心に描かれている。綾野が演じる研吾は、ある事件をきっかけに剣を棄て、酒に溺れ、荒れ狂う。その姿には、狂気すら感じるほどだ。
「研吾は父親に対する愛憎の狭間で揺れ、愛に飢えている男。自分が演じる役を、こんなにもかわいそうだと思ったのは初めてでした。正直、撮影の間は、希望も救いもない地獄のような映画になると思っていたんです」
けれど綾野は、完成した作品を見て、その認識をあらためたという。救いとなったのは、主人公と剣を交わし対峙する、羽田融という少年の存在。演じるのは、若手注目俳優の村上虹郎だ。
「虹郎の演技には、透明感とともに圧倒的なみずみずしさと眩しさがありました。そんな虹郎が演じる融が、研吾に希望を与えていたんです」
研吾の闇と融の光。2人の剣が交錯するそのとき、一体何が起こるのだろうか…。過去作を凌駕したいという想いのもと、綾野の役者魂が極限まで注ぎこまれた本作を、ぜひ劇場で体感してほしい。
あやの ごう
1982年1月26日、岐阜県生まれ。2003年に俳優デビュー。2013年『夏の終り』、2014年『そこのみにて光輝く』等の映画作品でこれまでに数々の賞を受賞。『武曲 MUKOKU』は『夏の終り』に続き、熊切監督作品2作目の出演となる
『武曲 MUKOKU』
6月3日(土)より全国ロードショー
監督:熊切和嘉 原作:藤沢周『武曲』(文春文庫刊)
出演:綾野剛/村上虹郎/前田敦子/風吹ジュン/小林薫/柄本明ほか
配給:キノフィルムズ
©2017「武曲 MUKOKU」製作委員会