photo: Naoki Muramatsu edit: Shiori Sekine(EATer)

GLASS-LABの江戸切子[東京きらり人]


この街の、ちょっといいものつくる人


【GLASS-LABの江戸切子】

「GLASS-LAB」代表 椎名隆行さん

対話を通して生まれる世界にひとつのグラス

 「せっかくなので見てもらってもいいですか」「グラスラボ」の椎名隆行さんがグラスに水を注ぐと、サンドブラストによって底に入れられた細かな柄が、平切子の面に屈折してグラス全体に広がる。これは、グラスラボオリジナルの江戸切子「砂切子」シリーズ。模様が広がるさまはまるで、万華鏡を覗いているかのようだった。

 サンドブラストとは、グラスの表面に研磨剤を吹き付けて文字や模様を入れる加工法のこと。平切子とは、グラスの側面や底面を平らに削ることで面の美しさを生み出す、江戸切子の製法のひとつである。江戸切子というと、太さの異なる直線で幾何学的な模様が彫られたものが多く、平切子ができる工房は少ないそうだ。隆行さんの生家は、江東区でガラス加工の工場を営む「椎名硝子」。その2代目代表であり、日本でも数少ない平切子職人である父・康夫さんと、家業を継ぎサンドブラストを担当する弟・康之さんとともに、隆行さんはいまも椎名硝子の伝統を守っている。この家に長男として生まれた隆行さんは、大学卒業後に一般企業へ就職。そこで培った営業の経験をいかし、椎名硝子の技術を新しいかたちで世に発信しようと、2014年にグラスラボを立ち上げた。

 グラスラボの魅力のひとつが、サンドブラストでオリジナルの柄を彫刻することで、世界にひとつのカスタマイズグラスをつくれること。その製作は、江東区の工房での打ち合わせから始まる。「工房が都心にあるからこそ、お会いして実際にグラスを見ながらヒアリングを重ねることができます。お話しするうちに、デザインのヒントが浮かび上がる瞬間があるんです。たとえば、もうすぐ90歳になられるお母さまへのプレゼントで、ご主人から初めて贈られた花が紫陽花だったというエピソードから、グラスに紫陽花をあしらいましょう、という話になることもありました」製作に着手してからも、多ければ8回、9回と修正を重ねていく。依頼者の話に耳を傾け、イメージをともに探っていく過程が、ふたつとないグラスを生み出す。それがグラスラボのスタイルなのだ。

 「以前、海外に行ったご友人への贈りもので砂切子をご注文いただいた方から、『友人に送ったあと、お酒を注いで模様が広がる様子を一緒に見たくてビデオチャットをしました』とメールをもらいました。そのときに、僕たちはモノをつくって渡すだけではなく、グラスを通した体験までお届けできるんだ、と実感しました」そう話してくれた隆行さんの表情からは、誇りが伝わってきた。大切な人に贈る特別なグラスが、グラスラボならきっと見つかる。

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椎名隆行さん(右)と、隆行さんの父であり平切子職人の康夫さん(左)

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底に花火の模様があしらわれたオリジナルの切子。水を注ぐと、まるで夜空一面に花火が上がっているように見える


《買えるのは、ここのお店》

清澄白河駅(東京メトロ半蔵門線)
GLASS-LAB

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1950年創業のガラス加工所「椎名硝子」の優れた技術を発信しようと、隆行さんが創業したガラス専門店。企画力をいかし、カスタマイズグラスを製作している。工房内の見学や万華鏡製作体験も開催しているので、詳しくは公式HPをチェックしてみよう。

江東区平野1-13-11
Tel. 03-6318-9407
[営]月・火・木・金 9:00〜17:00、土・日・祝    10:00〜16:00
[休]水
https://glasslab.official.ec


親子3人、それぞれの強みをいかしたモノヅクリ。
海外のお客さまにも大人気です。

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《案内人》鈴木正晴さん

株式会社コンタン代表取締役。「ニッポンのモノヅクリにお金を廻す」を旗印に、日本全国のすぐれものを発掘、国内外へ発信している。





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