日本のクラフトコーラを
浅草六区から世界へ
明治時代、浅草は浅草寺を中心として6つに区分けされていた。その中でも、湿地帯を造成した西側エリアは「浅草六区」と呼ばれ、映画館や演芸場、寄席などが集まる興行エリアとして発展。数々のスターを生み出す、日本のエンタメの中心地だった。いまもいくつかの劇場が、このエリアには残っている。
「雷門に浅草寺、浅草といえば観光地のイメージがありますよね。でも、浅草六区という場所は、かつて日本一の繁華街があったということもあり、ちょっと雰囲気が違うんです。独自の文脈が残っているというか、そこに惹かれてこの場所に店を開くことにしました」
そう語るのは、伊良コーラの代表、小林さん。6月に「イヨシコーラ 浅草六区店」をオープンした。
伊良コーラは、東京発の“クラフトコーラ”専門メーカーだ。小林さんは、100年前のコーラのレシピに出合ったことをきっかけにコーラづくりを始め、2018年にフードトラックでコーラ販売を開始。2020年に初の路面店を下落合に、2021年に2号店を神宮前にオープンした。浅草六区店は3店舗目になる。
「伊良コーラのルーツは新宿区の下落合です。その場所でかつて、和漢方職人であった祖父が『伊良葯工』という漢方工房を営んでいました。伊良コーラのレシピには、この祖父が残した漢方の知識がいかされています。そして、その下落合から神田川流域をたどっていくと旧浅草区にたどりつく。だからなのか、この土地には何かつながりも感じています」
浅草六区という土地の歴史と、祖父の知恵を受け継いだという伊良コーラの物語。そのふたつが結びつき、これから新たな文脈をつなげていく。
「浅草六区店の建物には、もともと大人のおもちゃの店がありました。60年近く続いた店です。ここは、ある意味この街らしい歴史やカルチャーがある場所でもあるんです。僕はそういう昔から続く文脈がある場所にワクワクするし、その面白さを伝えていきたい。いまは1階部分の営業のみですが、近々2階も客席にする予定です。そこで近隣の劇場などに声をかけて、トークショーや寄席なども企画して、コーラとともに体験もつくり出していきたいです」
取材をしたのは、雨上がりの夕暮れ。湿度は高く蒸し暑い。ひとときの涼を求めて、途切れることなく客が訪れていた。伊良コーラは、早くもこの街に馴染んでいるようだ。
店ではシロップも販売。右が「イヨシコーラ 魔法のシロップ THE DREAMY FLAVOR Mサイズ」(2750円/250ml)、左が「イヨシコーラ 魔法のシロップ THE JAPAN EDITION Sサイズ」(1400円/100ml)。
イヨシコーラは、コーラシロップを炭酸やミルクでわってつくられる。シロップには、シナモン、クローブ、ナツメグ、カルダモン、コリアンダーなど、10種類以上のスパイスや生薬が調合されている。
直営店限定販売の「THE GOLD EDITION」(1万800円/250ml)。 かつては“貴族の秘薬”とされていた「冬虫夏草」や、「高麗人参」、マムシからとれる「反鼻(ハンピ)」などの高級生薬が使用されている。
店内の広さは5坪ほど。祖父が営んでいた下落合の漢方工房にあった看板や薬棚を内装のアクセントにしている。なお、浅草六区店のオープンにともない、下落合店は、シーズナル特別営業になるそう。
店は、浅草ROXの横にある。東京スカイツリーに続くのが、新仲見世商店街。その入り口と交差するのが六区ブロードウェイ商店街で、浅草演芸ホールや、東洋館、浅草ロック座などの劇場がある。
「世界中で、コカ・ペプシ・イヨシ、と呼ばれるような存在になることを目指しています」と代表の小林さん。世界に発信できる場所というのも、浅草という場所に出店した理由のひとつだという。
イヨシコーラ 浅草六区店
台東区浅草1-24-8
[営]13:00〜18:00
[休]無休
https://iyoshicola.com