Text=YUHO TANAKA Photography=NARUMI TANAKA

東京メトロ[銀座線]第6回 新橋[Tokyo Pocket 〜マイ・サードプレイスを探して〜]

グルメ, おでかけ

 喧騒の街の隙間には、小さな「ポケット」のような空間がある。昼休みのひととき、あるいは週末の静かな時間に気持ちをリセットできる、東京メトロ沿線のさまざまな穴場スポットへ。


昭和の名残を残す、駅前ビルの役割。

 かつて〝サラリーマン〟の街として知られる新橋。日中は多くの勤め人たちが早足で行き交い、夜は一日の疲れを癒す酔客でにぎわう。そんな新橋でも、近年は東口・西口ともに再開発計画が持ち上がり、街の景色は少しずつ変わっていこうとしている。高層ビルが増え、装いが新しくなる一方で、この街に根づいてきた人の営みや空気感は、どのように受け継がれていくのだろうか。

 昭和の名残を宿す駅前のビルは、新橋という街の記憶そのものでもある。待ち合わせの定番スポット、SL広場のすぐそばにある〈ニュー新橋ビル〉は、その象徴的な存在だ。ビル内には飲食店や金券ショップ、マッサージ店、居酒屋などがひしめき合い、案内板の書体にも、時代の面影が残る。そんなビルの一階の角に、小さなジューススタンドがある。〈オザワフルーツ〉は、喧騒と混沌の中にある、オアシス的休憩スポットだ。店の壁には、旬の野菜や果実のメニューが並び、それぞれに栄養成分や期待できる〝働き〟が記載されている。気分や体調に合わせて選べるのも、この店の楽しみ方だ。「毎朝欠かさず同じジュースを飲んでから出勤される方、1日に朝夕2回いらっしゃる方もいます」と店主の小沢さん。常連客にとってはきっとその日のリズムを整えるための欠かせないルーティンになっているのだろう。

 西口のランドマークがニュー新橋ビルなら、東口には〈新橋駅前ビル(1号館・2号館)〉がある。高架沿いに並ぶその佇まいの印象は無骨で実直。迷路のようになっている通路を歩けば、思いがけない店とも出合える。1号館の〈カフェテラスポンヌフ〉はお昼どきになるとひときわ活気づく。店先にはナポリタンの甘酸っぱく香ばしい香りが漂い、お腹を空かせた人たちを誘う。人気メニューの「ポンヌフバーグ」や「ハンバーグスパゲティ」はまさに働き盛りのためのごちそう。しっかり食べて、午後へのエネルギーを満たしてくれる頼もしい一皿だ。
 

変わりゆく街で、変わらないもの。

 駅を中心に、方面によって景色はがらりと変わる。虎ノ門方面は、慌ただしい人の流れも落ち着き、時間の流れもおだやかだ。そんな街の空気に溶け込むように、老舗喫茶店〈ヘッケルン〉は路地裏にそっと看板を掲げている。マスターの森さんは80歳を超えた今も現役でカウンターに立ち、コーヒーを淹れている。店の奥に掲げられた「ペッケルン」のまねき札について理由を尋ねると「店の50周年の記念に〝○(マル)〟をつけて『ペッケルン』になったんだよ」と遊び心のある回答が返ってきた。マスターが毎朝仕込む名物のプリンは、昔ながらの硬めの仕上がり。気温や湿度によって微妙に表情を変え、その日ごとの出来栄えもまた味わいのひとつになっている。

 再開発の波に揺れ、高層ビルが空を塗り替えていくなかで、それでも変わらずに息づくものがある。働く人たちの活気と人情、そしてどこか滲む哀愁が溶け合い、この街の空気をつくっている。変わりゆく街で、新橋の魅力は、その積み重ねられた時間そのものにあるのかもしれない。

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昭和に竣工されたビル内を散策すると、色鮮やかでどこかポップな看板や、味わい深いサインの書体が視界に飛び込み、歩くだけで楽しい発見がある。

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〈ニュー新橋ビル〉の各フロアをつなぐエスカレーター。グリーンのタイルが照明の光を反射し、どこか近未来的なきらめきを放つ。


1. 
オザワフルーツ

住:東京都港区新橋2-16-1 ニュー新橋ビル141号
営:平日8:00〜19:00、土曜9:00〜18:00
休:日曜・祝日

前身は1948年創業の高級果実店。その後フルーツジュース専門店へと姿を変え、ニュー新橋ビル内では最も古い店舗として親しまれてきた。「おいしく飲めて、身体にも良い新しいジュース」をコンセプトに、その場で搾って提供されるフレッシュジュースは染み渡る美味しさ。

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2.
カフェテラスポンヌフ

住:東京都港区新橋2-20-15 新橋駅前ビル1号館
営:月〜木曜11:00〜15:30/金曜11:00〜15:30、18:30〜20:00
休:土・日曜

1967年創業の昔ながらのカフェテラス。ナポリタンスパゲッティにハンバーグがのったボリューム満点のメニューは、どこか懐かしい味わいで、昼どきには行列ができることも珍しくない。店名の「ポンヌフ」はフランス語で“新しい橋”を意味する。

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3.
ヘッケルン

住:東京都港区西新橋1-20-11 安藤ビル1F
営:9:00〜15:00(変更となる場合があります)
休:水・土・日曜・祝日(不定休)

1971年創業。新橋・虎ノ門エリアの路地裏に店を構える老舗喫茶店。店主・森静雄さんが手がける名物のジャンボプリンと、サイフォンで淹れる本格的なコーヒーを目当てに、世代を超えた客が足を運ぶ。

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