豊かな音と、幻想的な映像を体感―。
建築、写真、デザインなど現代美術を扱う「ワタリウム美術館」(東京都渋谷区)が初めて、〝音の展覧会〟を開催しています。美術館といえば静寂の中で鑑賞するのが一般的ですが、この展覧会はまったく異なります。ワタリウム美術館の和多利浩一代表は「美術館でありながら高スペックに聴ける環境に仕上がりました」と自信をみせています。

「坂本龍一|設置音楽展」のメーン会場 (撮影・丸尾隆一)
展覧会のタイトルは「坂本龍一|設置音楽展」です。音楽家の坂本龍一さんが8年ぶりに発表したアルバム「async」の世界を音と映像のインスタレーションで紹介しています。
「async」とは、否定を表す「a」と「シンクロ」や「同期」を意味する「sync」からなり、「シンクロしない」とか「非同期」という意味だそうです。

坂本龍一さんの8年振りのアルバム「async」
メーン会場の2階では、アルバム全曲の5.1チャンネルサラウンドを6カ所のスピーカーで再生。会場に入るとまるで音が、前から、横から、そして天井から降り注いでくるような気がします。
このアルバム「async」は、「架空のタルコフスキー映画のサウンドトラック」がコンセプトということで、ときに林の中を歩く足音が、ときに雨の音が、そして三味線の揺れる音が交差していきます。

メーン会場の2階では、坂本さんが最も信頼するムジークエレクトロニクガイサイン製スピーカーが6台、設置されています(撮影・丸尾隆一)
それらの時間軸を映像で表現し、会場構成も手掛けたのがメディアアーティストの高谷史郎さんです。
会場は、全面にわたって設置された8つの画面で1つの絵ができるパノラマのようになっており、流れる時間を表現するために右から左にゆっくり動画が動いています。
「時間が写り込んだパノラマなんです。そして、音と映像は少しずつズレていってるんですよ。だから冒頭、朝一番で始まったときは同じ曲ですけど、どんどん音と映像はズレていくので、見る時間によって全然違うようになっています」と高谷さんは説明します。
映像の素材撮りは今年1月。坂本さんが音楽を作っているニューヨークのプライベートスタジオなどで行われました。ピアノ、テーブルの上の本や楽器、カセットテープやウォークマン…。それらが動画として映し出されています。
「こういう所からこういう音楽が生まれてきたということが重要だったので、奇をてらわず、シンプルに坂本さんの制作環境を撮影しました」と高谷さん。

インタビューに答える、メディアアーティストの高谷史郎さん(左)とワタリウム美術館の和多利浩一代表
一方、和多利代表にとって初となる〝音の展覧会〟ですが、その音をずっと聴いてもらうには映像は重要なスペックだったようです。
「今回、音楽と映像はフィフティフィフティの関係。『async』のプロモーション映像ではありません。リッチな音と映像がコラボレーションして新たな世界を生み出しています。僕らがYMOが出たときにショックを受けたように、ダウンロードの音楽をいつも聴いている今の若い人たちがこの音を聴いて、豊かさを知って、音ってこんなにたくさんあるんだって感じてほしいですね」と話します。

「ワタリウム美術館」の外観。モダンアートのような建築です=東京都渋谷区
なお、美術館の3階では、映像チーム「zakkubalan」が撮影したアルバム制作時の坂本さんのプライベートを象徴的に捉え、アルバムの音素材などを混ぜたインスタレーションが広がります。

3階フロアの展示(撮影・丸尾隆一)
4階では、坂本さんとタイの映像作家のアピチャッポン・ウィーラセタクンがコラボレーションした映像表現も楽しめます。

4階フロアの展示(撮影・丸尾隆一)
音と映像のインスタレーションで、坂本さんの8年ぶりのアルバム「async」を感じてみませんか。展覧会は5月28日まで開催されています。
◆「Ryuichi Sakamoto|async 坂本龍一|設置音楽展」は、東京都渋谷区神宮前3-7-6の「ワタリウム美術館」で5月28日(日)まで。午前11時~午後7時(毎週水曜日は午後9時まで、月曜休館)。大人1000円、25歳以下の学生500円。問い合わせは、☎03・3402・3001。
公式ホームページは、http://www.watarium.co.jp/
◆坂本龍一さんの8年振りのアルバム「async」は、発売中、RZCM-86314 3780円(税込み)。アナログ盤「async」(7020円・税込み、RZJM-86312~3、12インチ重量盤・2枚組、ボーナストラッ ク1曲)は5月17日発売予定。詳細は、http://www.skmtcommmons.com/