椅子であることをいつでもやめられるきみは団地を駆け抜けていく
わたしの自宅には、たくさんの椅子がある。体は一つしかないというのに、座るところはたくさんある。
リビングでテレビを見るとき、寝そべるためのソファ。座面が固くて沈みにくいのが気に入っている。窓のそばにはIKEAで買った、オレンジ色のスコールボダがある。ワイヤーでできているから抜け感があり、いつ見てもかっこいい。仕事部屋にはイトーキのvertebra03を置いている。わたしの好きなブルーとブルーグレーの布地を選びカスタマイズした。座らなくても見るたびにはしゃいでしまう。それ以外にも、カーペットの上でちょこんと座れるミニクッションや、キッチンテーブルにあわせて購入した木の椅子のペア、読書のときに体を預けて癒やされているニーチェアのロッキングチェアなど、本当にいろんな種類の椅子がある。
そしてまた一脚、新しい椅子を仲間入りさせてしまった。Colemanのキャンプ椅子だ。ベランダに置いて、朝の時間や仕事の合間に、日光浴をしている。
それぞれの椅子に、それぞれの心地よさと、景色がある。違う椅子に座るたび、気持ちがちょっと切り替わるのが、わたしは好きなのだ。
岡本真帆(おかもと・まほ)
歌人・作家。1989年生まれ。高知県出身。2022年に第一歌集『水上バス浅草行き』(ナナロク社)、2024年に第二歌集『あかるい花束』(ナナロク社)を刊行。最新刊に、自身の好きなものを短歌とエッセイで表現した『落雷と祝福』(朝日新聞出版)がある。